うちの店の隣は長くスナックだったけど、ママさんが体調を崩して営業しなくなって二年経つ。私が今の店舗をお借りした平成5年より前から営業していて、地元で愛されていたスナックだった。
一昨年の暮れ、連帯保証人ではないご親族がキレイに片付けてくださったが、掃除や原状回復等はしておらず、放置していた。昨年の11月に、当社管理のアパートに入居している女性が来店して、「勤務先を辞めましたのでご報告に伺いました」とのこと。契約書にも「申込時の内容に変更があった場合は速やかに届け出ること」と謳ってあるが、この仕事をして32年になるが、報告してくれた入居者は一人もいない。
「失業したので、家主さんが(家賃を払ってもらえるか)心配するといけないので、何ヶ月分かをまとめて前払いすることもできますが」と言う。そんなふうに言ってくれる人が家賃を滞納するワケがないから「その必要はありません」とお伝えした。で、次の仕事が決まっているか訊くと・・・、
「実は、長年の夢だったコーヒー豆を焙煎して販売する店をやりたいんです」とのこと。まだどこでやるかは決まっていないとか。それで、「うちの隣りの元スナック、明け渡してもらったままの状態で掃除も何もしてないけど、家主さんには一切負担を掛けない、全部自分でやる、ということなら家賃を交渉してみるけど、見てみる?」と訊くと、「ぜひ見たい」とのこと。見せたら一発で気に入ってくれた。「いくらなんでも、これでは・・・」と断られるかと思っていたのだが。
家主さんに相談すると・・・、二つ返事でOKしてくれた。
元々、家主さんは欲の無い方で、そういう交渉事にも柔軟に対応してくださる人で、私も、家を買う時に頭金をかき集める必要があって、保証金の100万を敷金2ヶ月に変更してもらって、差額の86万を快く返して頂いたことがある。日本中探しても、そんな家主さんは稀だろう。
それで、契約成立。と言っても、礼金も敷金もない。契約書もなく、用意したのは覚書だけ。保険に入ってもらう分とか諸々で初期費用は6万弱。いくら全て自分でやらなければならない、と言っても破格の条件。それに、連帯保証人も立ててもらっていない。それ、実質的に私だから。
食品(口に入るもの)を売るのだから店内をキレイにしなければならないのは当然の話。保健所の検査もあるし・・・。ところが、である。毎日やってきて、友人の力も借りて、もの凄くキレイにしてしまった。前の状態を知っているから、とにかく驚いた。私もできる限り協力しようと思って、家にある高圧温水洗浄機を貸したりした。本人の一生懸命さが伝わってくるから周りも協力したくなるもの。
だいたいの掃除は年内に済ませ、美大生が店舗デザインを担当し、1月4日と7日にプレオープンをして、ちょうど1週間前の1月8日(大安吉日)に「小梅の珈琲焙煎所」として正式オープンした。
その様子がこちら、
奥にいるのが店主、右端の女性は隣町の国立の花屋の店主ルミちゃん、大変な苦労人
一口に「コーヒーの焙煎」、と言っても非常に奥が深く、娘さんも長く修行をしていたとか。正式オープン前に、私も連日、何杯も試飲させて頂いた。今では隣からコーヒーの香りが漂ってきて幸せ。
オープンしたら私が最初の客になろう、と思って、いろんな人に声を掛けて、20人からコーヒー豆の注文を取った。家にコーヒー・ミルがあるかどうか確認して、豆のままでよいのか挽いたほうがよいのか、ふだんどんな飲み方をしているか事前に聞き取りをして、オープン当日に配って歩いた。もちろん、全て私の奢り。この後もさらに増えるだろう。喜んで頂ければ十分に元は取れる (^◇^)
毎日、通行人が中を覗いていくし、お客さんが絶えない。「へえ、コーヒー豆って、こんなに需要があったんだ・・・」と驚いている。伊勢丹などにもコーヒー豆専門店は有るが、小さな個人商店で店主と会話を楽しみながら、そしてコーヒー豆の豆知識(あの・・・、これ、駄洒落ね)が得られる、希望すれば店頭で試飲(有料)もできるから、コーヒー好きには有り難いお店。
私も、今までは「美味しいお菓子」を主にバラ撒いていたけど、新たにコーヒー豆が加わって嬉しい。
人柄の良い人は得である。これからもずっと応援してあげよう (^^♪