店番をしていたら、静かに若い女性が入ってきた。ドアが開くと、外の車の通行の音が大きくなるので、「あ、ドアが開いたな、誰か来たな」と分かるのだが、それにしても遠慮深い。
私と顔を合わすと、「失礼します、私、株式会社〇〇の〇〇と申します」、と名刺を差し出す。
営業目的で来訪したことは店への入り方で分かるので、座るよう勧めて、「何かお飲みになりますか?、コーヒー、お茶、あとは・・・」と勧めると、遠慮なく「あ、お茶でお願いします」だと。私は基本的に飛び込み営業を門前払いしない。話を聞いてみないと、うちにとって有益かどうかは分からないのだから。そして、話を聞く前に飲み物を勧めるようにしている。飛び込み営業の辛さは私も経験して知っているから。
ペットボトルのお茶を出して、気持ちを落ち着けてもらい、ようやく本題に入ることに。予想通り、土地の仕入れの話だった。今すぐ案件は無いが、先に行って出るかも知れないから話だけは聞くことに。
名刺に「宅地建物取引士」とある。「宅建の資格、持ってるんだね。いつ取ったの?」と言うと、「去年一発で受かりました」だと。「おいくつ?」と訊けば「30歳です」とのことで、さらに「今の仕事は何年?」と訊くと、「5年です」と言う。まるで履歴書の内容の確認をしながら話す面接官のような気分 ^-^;
そして、そこからが面白かった。「その前は?」と訊くと・・・、
「見てのとおり、キャバクラです」と言う。私も最初に顔を見た時は、その雰囲気から、「水商売っぽい化粧と雰囲気で営業活動してるんだ・・・」、と思いはしたけど、それにしても正直である。いや、むしろ、そのギャップを「売り」にしているような感じさえする。「見てのとおり」と言うんだから自覚はしていると思われる。ま、バレバレであっても、女性の経営者や担当者に対しては言わないほうがいいかも。
「大学には行かれたの?」と訊くと、「実は中卒なんです」とのこと。それで宅建に一発で受かったのは凄い。私が受けた頃は高卒以上でなければ受験できなかったが、今はそういう制限は撤廃されている。そしてさらに、「賃貸不動産経営管理士の資格が国家資格になったので、次はそれを取りたいと思っています」とも言う。見た目はキャバクラのオネエサンっぽいけど、ヘタな大卒よりしっかりしてるし堅実である。
しかも、宅建士の試験を受けることや、宅建講座に通わず独学で勉強することを周りの友人知人に話したら、誰もが「受かりっこない」と言うので、「じゃあ、もし合格したら1万円くれる?」と言って約束させて、合格後に、みんなから1万円ずつ回収してかなりの額になったとか。それも偉い。
私は、「(落ちたらカッコ悪いから、と)受験することを周りに隠しているような奴は合格しない」と思っているが、それで荒稼ぎする人物がいようとは・・・(爆)
また立川に来るだろうから、無駄足にならないように、このバス通りで、そういう商談で行ってもいい店と、断られるであろう店を教えておいてあげた。ま、うちは、断りはしないけど成果にはならない店だけどね。来店した時は強い雨だったけど、話しているうちに雨も上がり、丁寧にお礼を言って帰って行った。
後ろ姿に、「頑張りなさいよ!」、と心の中で声を掛けた。
夕方、帰社した頃、お礼のメールが届いた。こういう(苦労人の)営業さんなら応援したくなる、ほんと。