調布での引越し立会いで遠出をしていたら、携帯に公衆電話から何度も電話が入っていた。運転中は「ドライブモード」にしてあるし、公衆電話からだと私から折り返し電話するワケにもいかない。
しばらくして、家主さんの御宅で打ち合わせをしていると、また電話が入る。ようやくに出ると、「今、お店の前にいるのですが、何時ごろお帰りですか?」、と訊く。その時点で4時で、「今、調布にいまして打ち合わせ中なもので、たぶん6時近くになると思いますが」、と答えると、「でしたら待たせて頂きます」とのこと。
なんでも「私の家を売却する相談に乗って頂きたいのですが・・・」とのことなので、「ああ、近所の方で出直してくるんだろう。でも、そんなに待たされるなら普通は他の店に行きそうなものだけど」、と思いつつ急いで帰社すると、電話の主は店の前で待っていた。
店に着いたのが5時半で、最初の電話が3時半だから、なんと2時間も待たせてしまったことになる。
店に入って頂いて用件を伺って、なぜ2時間もお待ちになっていたのかが判った。年の頃なら60代半ばのその男性は、遥々千葉のA市からバイクで来ていて、ピンポイントで私を訪ねてきていた。
携帯も持たず、ネットもしてなくて、以前新聞で私の本の書評を見て購入し「何かあったらこの不動産屋さんに相談しよう」と思っていたとか。それで五月書房さんに電話して私の連絡先を訊いたようだ。
そうは言っても私の専門分野は賃貸で、これは売買の話だし、しかも物件は千葉県なので、一通りお話を伺った後で地元の優良な業者を紹介して差し上げるくらいしか出来ないかな、と思っていたのだが、詳しく伺うと「裁判で係争中で、何社かに依頼したものの条件が合わなかったり断られたりしている」とのこと。業者が「せっかくの儲け話」なのに逃げ出してしまう気持ちも解かるような事情が有った。
男性は老後の棲家に、と競売で「定期借地権で建てた一軒家」を落札したのだが、以前の所有者は病死して子供たちも相続を放棄していた。以前の所有者は地主に保証金として1100万を支払っているが、それはおよそ40年後の満期に権利者が請求するまで返金されない。ただし権利者は死亡して遺族は相続放棄しているから請求されることも有り得ない。地主からすれば「ラッキー!」くらいの話だ。
にも関わらず、地主は建物を購入した男性に「新たに保証金1100万を積むよう」要求してきた。理不尽ではあるが、法的に言えば「そのこと自体は仕方ない」と思う。問題は別のところにある。
競売物件には明細が付けられていて、落札者が後々どんなリスクを負うことになるのか詳細に書かれているものだが、その資料には「新たに保証金1100万を積む必要があります」とはどこにも書かれていない。それは明らかに裁判所の手落ちである。現に八王子地裁での同様の競売物件の説明書にはちゃんと謳ってある。
と言うことは、(地主ではなく)裁判所を訴えれば十分に勝てる、と思われる。ただし、相当な時間も費用も掛かる。
男性は今までに相当な資料を集め勉強していた。地元のいろんな業者に当たって断られたり、売却できたら仲介料以外に(違法性が高いが)手間賃100万を上乗せするよう要求されたりもしている。
思い上がりかも知れないが、男性からしてみれば、私は「最後に行き着いた相談相手」だったのかも知れない。事前の連絡が無かったとはいえ店の前で2時間も待たされても文句ひとつ言わないし、2時間ほど話して店を出る時には「話を聞いて頂けただけでも落ち着けた」と涙ぐんでいた。その時間に、奥さんが待つ千葉県の自宅までバイクで帰っていく。
その男性の優しさと誠実さは充分に伝わってくる。
今の私は募集中の空室を多く抱えていて、ハッキリ言って、それどころではない。だが、私は、男性の相談に最後まで乗ることにした。仲介を引き受けるのではなく解決に向けて協力する、という意味で。
もちろん、報酬は一切要らない。
技術的にはアウトかもしれませんが、相手が訴えてくるまで待つ方が良いかもしれませんね。
地主にはじゃあ訴えれば?とかのらりくらりと。。。相手も既に利益は得てるので不利な点はありますし。
これ、お話を伺い始めた時はチンプンカンプンで、どうしようか、と思いました。
地主は既に1100万を何かに運用しているとかで、しかも「返す必要がなくなりそうだ」と知っていて「新たに払え」と要求しているのですから、法的には通っても、同義的にはどうかと思います。
ま、頑張ってみます。またご助言をお願いします。
よく読んでませんでした。(汗)現在係争中なんですね。。。
定期借地権って聞いたことが有る位だったので色々検索してみましたが、相続とかの場合は問題なくても第三者への譲渡の場合には地主の承諾が必要とか色々あるんですね。家を買ったけど実は上物だけでしたって・・・洒落にならないです。
頭の柔らかい裁判官だと良いんですが。。。頑張ってあげてください。
やれやれ・・・ですね。
激励、有り難うございます(*^^)v
昨日、全宅の顧問弁護士を紹介すべく連絡いたしました。この定期借地権契約には特約がいくつか付いていて、その内容が建物の買主には有利に働くようにも思えました。と言っても、専門家の判断を仰ぐのがベストなので、先ず弁護士さんに相談してもらいます。
どうも、今、頼んでいる弁護士さんはダメなようで・・・。
それから先のことは改めて相談に乗らせて頂きますが、長引くと年齢的かつ経済的に負担が大きくなりますから、悩むところですね。
既に1100万の保証金を預かって、返す必要が無くなっているのですから、その上に欲をかく必要は無いのでは、と思いますね。
これ、入居中に「敷金が礼金になった」ようなものです。家主からすれば「後で精算する必要がある敷金」として預かったおカネが、「もう返さなくて良い礼金」になったワケで、それだけでも大変な幸運です。ま、宝くじで1000万当てたのよりデカいですし。
だいいち、40年後、互いに生きてはいないものでしょう(*^^)v
歳は取りたくないし、欲はかきたくないもの、ですね(爆)
変なコメントが初コメントで申し訳ありません。
この記事などを読んでいて思ったのですが、地主は本当に保証金を返す必要がないのでしょうか?
不動産関係に明るくないのですが、現在相続税を勉強しています。
実務を知らないので、トンチンカンなことを言ってしまっているのかもしれませんが……。
一般に財産は、相続人になり得る人が全員放棄すると、相続財産法人などを経て、最終的に国に帰属します。
競売にかかったと言うことは、債務の弁済に充てるために債権者が売ったか、国に帰属したから売却されたんでしょうか。
借地権の期限が切れたときに保証金の返還を請求する権利が、特定の債務者or国にあるように思えてなりません。
それとも、定期借地権の保証金の請求権は相続以外で取得すると消滅するものなんでしょうか?
返信が遅くなりまして相すみませんです。
Kamonohasiさん、よく勉強なさってますね。本当にそう思います。
契約書には、契約満了後、権利者(賃借者)が請求した時に返還される、と在りまして、権利者が死亡し、相続人が放棄しているのですから、本来は国庫に納められます。
ところが、現在は「地主に対する保証金」なので、直ちに国庫に没収されることはありません。では、満期である40年後はどうか、と言えば、本来ならそこで地主が国庫に返還するものでしょうが、ハッキリ言って、その時点では当事者はどちらも死んでいますし、ま、何とでもなるものでしょう。
現に今、地主が、保証金は「仲介をした住友不動産に返還した」とか「国庫に返還した」とか言っていて、裁判をしていても「保証金が現在どこにあるのか」判らない状況になっています。常識的には考えられませんが、今でさえこんな話になっているのですから、40年後には調べようともされないものでしょう。
私は、間違いなく「地主がまだ持っている」と思っていますが。
<<競売にかかったと言うことは、債務の弁済に充てるために債権者が売ったか、国に帰属したから売却されたんでしょうか。
借地権の期限が切れたときに保証金の返還を請求する権利が、特定の債務者or国にあるように思えてなりません。
これ、Kamonohasiさんの仰るとおりなんです。定期借地権で家を建てた人が、死亡によりローンを払えなくなって、相続人が放棄したことにより銀行が回収不可と判断して競売に付したものです。
競売等で定期借地権付き建物を取得した場合、最初の契約に特約が無ければ、保証金を新たに請求されることは致し方ありませんが、今回のケースでは新たな取得者に継承されると謳ってあって、それが話をややこしくしています。
ただし、当たり前に考えれば次の所有者から新たに保証金が支払われたなら、前の保証金はその時点で国庫に納めるもの、ですね。どうも地主は「言を左右して」なんとか懐に入れようとしている疑いがあります。1100万ですもんね、理性も飛んでしまうものでしょう。
10年前の年金でさえ「どこに消えたか」判らなくなっているのですから、私も地主の立場なら「もう貰ったも同然」と考えるかも^_^;
期間の長い契約をする際には、自分の死後のこともよくよく考えないとならないものですね。
お手数でしょうが。この続きを是非、このブログでお知らせ下さい。何故か他人事に思えません。
個人的には地主が強欲に思えてしまいます。円満に解決して欲しいですね。
なるほど。
どこかに「返還した」と地主が主張してるんですか。
たしかに面倒ですね。
やはり、不動産関係は高額で物の寿命が長い分だけ、理論通りにはいかないものなんですねぇ。
保証金を受け取ったら債務だと考えなきゃいけないはずですが、流石に50年後の返済だと実感がわかないんでしょうか……。
定期借地権って難しいですね。
ふと思ったんですが、最悪保証金を積まなきゃならなくなったとして、
地主はその所得を申告するんでしょうかねぇ。
しなさそうです。税務署に教えてあげれば、いいような(笑)
まぁなんの問題の解決にもならないですが。
いつもお読み頂き有り難うございます。
仰るとおり、地主は相当に強欲ですね。資産家にも篤志家はいるものですが、こういうのがいるから「金持ちはケチ」「汚い」とか言われてしまうワケでして。不条理ではありますが、世の中、おカネというものは「有る人のところに集まるようになっているもの」というのも真理です。
続編、必ずアップさせて頂きますね(*^^)v
<<保証金を受け取ったら債務だと考えなきゃいけないはずですが
まったく仰るとおりです。
ふだん、アパートの契約をしていて、家主さんに対して契約金を送金すると、預かった敷金を「もらったもの」と勘違いして使ってしまう家主さんが中にはいらっしゃいます。
考えられないことですが、現実にいるんですよ。私が「礼金は、もらってしまっていいもの。敷金というのは入居者から退去時までお預かりしているものであって、原則的に後でお返ししなければならないもの」と説明しても、「しょうがないじゃんか、他で必要だったんだから」と言われたことさえ有ります。
で、両方から責められるのは不動産屋なんですよ、堪りません。
って、済みません、愚痴でした^_^;
続編は近いうちに書く予定です。今後とも宜しくお願いします。