盗まれたのは絵、額装された油絵一枚、であった。とくに有名な画家の作品、というのでもなく、何十万何百万もする絵でもない。
犯人は、店に飾ってあった「その絵」が特に好きで犯行に及んだのか定かではない。ご主人はいちおう警察に被害届けを出したのだが、その絵のことは諦めていたとか。
だが、ひょんなことから「その絵」が戻ることになる。
近所の居酒屋で一杯ひっかけていた初老の男が、店主に「財布を忘れてきたようだ。この絵を置いていくから、それを飲み代に充ててくれないか」と、例の絵を差し出した。
店主は近所に泥棒が入って絵が盗まれたことは聞いていたから、もしかして、と思い、男の連絡先を聞き出したうえで警察に届け出た。
犯人は、たまたま売りさばく相手を物色するために持ち歩いていたものか、元々酒代にするつもりで持って来ていたのかは判らない。だが、普通は「犯行現場から遠いところで処分する」ものだろう。
もちろん男は直ぐに逮捕され、絵は無事に持ち主に戻った。皆で散々犯人を馬鹿にして大笑いしたのは言うまでもないのだが・・・、
もう娑婆に出ているだろうし、今頃どうしているか少々気になる
