30代半ばの男性・・・、音もなく黙って入ってきたのでいつ入ってきたのか気付かなかったくらい。「すみません」でも「こんにちは」でもなく、ボーっと突っ立っていた。ゴルゴ13なら振り向きざまに一撃加えているところだろう。「いらっしゃいませ」と言っても反応がなく、「どうぞ」と座るよう勧めても立ったまま。
しばらくして、「えーっと・・・、じりつしたほうがいいとおもうのでハローワークにいっていて、しろきやみたいなとこではたらくつもりでいるんだけど、ひがしやまとあたりでいちばんやすいへやって、いくらくらいからありますかねえ」、と口を開く。
ひらがなで書いているのは、漢字も交えて書くとスラスラ喋ってる感じになるからで、実際は眠くなるくらいゆっくり話していた。
「風呂なしでいいの?」「広さとか、希望条件は?」と訊いても、答えにならない答えしか返ってこない。「えきからここまであるいてきて、ほかのふどうさんやにもはいったけどへやをしょうかいしてもらえなくて、ここはしょうかいしてくれんの?」と訊き返してきた。
「条件が分かってれば探せるよ」と言ったものの「紹介できる」とは言っていない。と言うか、申し訳ないが、とても紹介などできない。
「しりあいに、そろそろしごとしたほうがいいっていわれたけど、そうなの?」「ぼくは34さいだけど、これくらいまでしごとしないでぶらぶらしてるひと、ほかにもいるのかなあ・・・」
昨晩はあまり寝られなかったので一気に睡魔が襲ってきた
根は真面目そうだけど気力が持続しない男、と思えた。現に、「あまりしごとするのはすきじゃないから」とも言っていた。
「いえをかっちゃったほうがいいのかなあ・・・。いっせんまんくらいまででちゅうこのマンションとかしょうかいしてくれる?」と訊くので、「ローンは組めないから現金になるけど、資金はどうするの?」と訊けば、「おやじにだしてもらう」と言う。
「さっき、自立したいって言ってたけど、それじゃ親を当てにしていることになって自立とは反対方向に行っちゃうでしょ!?」と言うと、「ああ・・・、そうなるんですか・・・」だと。いかん!、上瞼と下瞼が仲良くしそうになってきた
「ぼくはどうしてローンがくめないのですか?」と訊くので、「今は無職で収入が無いんだから、銀行がおカネ貸してくれないでしょ」と言うと、「へえ〜、そうなんですか。じゃあ、しごとすればかしてくれるんですか?」と重ねて訊く。私はほとんど舟を漕いでいた。
いわゆる「知恵おくれ」という感じで、先に訪れた同業者でもさぞかし対応に苦慮したものと思われた。話している間にも何件か電話が掛かってきて、それをきっかけに「それではどうも」と帰ってくれることを期待したが、しっかり待っていた。律儀なのかも知れない。
気の毒ではあるが、現状では貸せる部屋は無いし、他社にも紹介できない。紹介したならこちらの信用問題になるから。
以前も女性でこういうお客さんがいた。その時は、「同業者に対していつも感じが悪くて大嫌いな会社」に行くよう振ったが、今回はしなかった。私が勧めたのは、先ず市役所に相談することだけ。こういう問題は家主さんや不動産会社が何とかする問題ではないのだし。
最近は、普通のお客さんが来店することはめっきり少なくなった。
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