24日の橋下弁護士の「申告漏れ」の記事に付き、ふだんから親しくお付き合いさせて頂いている公認会計士(で税理士)のSさんから、非常に詳しく解説のメールが届きました。
長編ですが、さすがにプロですね、とても解かりやすい内容です。
ご本人の了解の下、(改行以外は)そのまま転載させて頂きます。
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橋下弁護士、荒れてますね(笑)
私の感覚からすると、完全な白ではなさそうですね。
かといって黒ではありません。
おそらく税法面だけみればアミカケ10%ぐらいでしょうか。
「悪徳」ブログとご本人のブログとでの話題をいろいろ私なりに整理すると、こんな感じにまとめられるのではないかと思います。
(1)マスコミの虚偽報道
(2)公務員の不正
(3)本業と副業の関係
(4)たんなる経費の否認か脱税か
このうち、
(1)についてはいろいろ言いたいこともありますが、きょうはやめておきます。
(2)についてはいろいろ言いたいこともありますが、守秘義務違反については(4)で補足します。
(3)についてはいろいろ言いたいこともありますが、いわゆるタレントもどきで一番嫌いなのは糸井重里(笑)とだけ指摘させていただきます。
で、(4)ですが、と〜ても長くなりますが、以下、私の考えるところをつらつら書いてみます。
<橋下弁護士、たんなる経費の否認か脱税か>
(a) 橋下、脱税か否か
結論から言うと、橋下弁護士は脱税はしていません。
なぜかは簡単で、今回のケースは次のような理由で、脱税の定義にあてはまらないからです。
所得税法上、「脱税」の定義はおよそ次のようになります
(ところどころ省略したり、要約しています)。
「偽りその他不正の行為により、所得税を免れたり、所得税の還付を受けること」(所得税法238条)
まず、橋下弁護士に「偽りその他不正」があったかどうかですが、彼のブログの内容から判断する限り、その可能性は低いと思います。もし「偽りその他不正」があったとしても、次の理由から、いわゆる「脱税」ではないことになります。
たしかに、所得税法238条の規定を文面通りに読むと
1,000円でも所得を不正にごまかせば、即、脱税となりますが、実際問題、国税職員がそのような少額の脱税をすべて否認して回ることは不可能です。
そこで、いわゆる脱税と判断されるのは、国税犯則取締法による犯則事件に関するものに限って考えることが多くなります。
つまり、局の査察(マル査)が出てくるような場合です。
では、どのような額になれば犯則事件に該当するかですが、
いろいろ調べたのですが、明確な規定が見つけられませんでした。
ただ、補脱税額にして1億円以上というのが定説のようです。
ちなみに罰則ですが、同条に
「五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」とあります。
さらに脱線ですが、こんな規定もあります。
「所得税に関する調査に関する事務に従事している者又は従事していた者が、その事務に関して知ることのできた秘密を漏らし、又は盗用したときは、 これを二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。」(所得税法243条)
橋下弁護士の修正申告内容をリークした国税職員は、この規定を肝に銘ずるべきでしょう。
(b) 領収証のない経費は認められるか
税法は一般的に、形式より実質を重視しています。
なので、現実として支出が発生したのであれば、その事実は認められると考えるべきです。
つまり、
領収証がなくても、現実の支出があればOK
逆に、
領収証があっても、現実の支出がないとNG
です。
(a)に書いた脱税の(実際上ではなく)厳密な定義から判断すれば、
領収証がなくて現実の支出を経費計上した場合より、現実の支出がないのに領収証があって経費計上した場合の方が悪質です。だって、支出がないのに領収証があるってことは、私文書偽造ですから(笑)
「偽りその他不正」にもろに該当します。
日常の生活で、領収証を受け取れない支出は多いです。
いまでこそプリペイドカードが発達して領収証を受けとりやすくなりましたが、電車・バスなどの交通費は領収証がなかなかむつかしいです。
あるいは香典など、シチュエーション的に「領収証ちょうだい」と言えないことも多々あります。
そういう現状で、領収証のない経費計上がすべて否認なんてあり得ません。
これは納税者自身が誤解している部分も多いので注意が必要です。
「現実の支出がない経費計上は否認される」と考えるべきです。
※ただし、支出があると認められたことと、
「収入」から差し引ける「必要経費」として認められるかどうかは、また別の問題になります。
(c) 「申告漏れ」という言葉
かなり曖昧な言葉です。
報道では、白に近いグレイを黒に近いグレイにでっち上げる言葉として、ズルイやり方で使われているようにも思えます。
今回のケースはたしかに申告漏れなのですが、
「見解の相違等により経費の一部を否認された」
と表現するのが正しいように思います。
さらに言うなら、「結果として、過少申告であった」と。
ちなみに、合法違法含めた税額を少なくする方法には、およそ次のようなものがあると考えられます。
報道では節税以外、すべて「申告漏れ」と表現されるものです
(いや、むしろ脱税は「脱税」と書かれるか)。
・脱税(違法・故意の課税逃れ・悪質)
・租税回避行為(合法・故意の課税逃れ)
・節税(合法)
・見解の相違(故意・過失を問わず、合法と違法の間のグレイゾーン)
・単純ミス(過失)
租税回避行為というのは、海外子会社などを利用したり、税法の意図しない、かなり不自然な取引を使って税額を少なくしようとするものです。
最近の例では、航空機リースを利用した事件などがこれにあたります
(国側敗訴)。
見解の相違というのは、納税者が認められると考えていても、国税当局が課税逃れと判断する場合です。
最近の例では、萬有製薬の交際費課税の事件などがこれにあたります
(国側敗訴)。
節税は、よくあることですが、
奥さんを専従者にしたり、個人事業を法人化したり、子供をたくさんつくったり(笑)と税法の意図する範囲において税額を少なくすることをいいます。
(d) 「修正」と「更正」の違い
ここまでの話だけだと、
橋下弁護士は完全な白のようにも見えます。
でも、私にはどうも腑に落ちない部分があり、それが0%でなく10%と考える理由です。
橋下弁護士は修正申告しています。
「更正」ではなく「修正」です。
私にしてみれば、なんでそんなことするの??て感じです。
修正申告というのは、
自ら誤りを認めて(自主的に)申告しなおすことです。
これに対して、
更正処分というのは、
国税が強制的に所得額とか税額とかを変更させる処分のことです
(国税通則法24条)。
これも納税者の誤解の多い点ですが、
「税務調査で指摘されたことはすべて修正しなければならない」
わけではありません。処分と言われるとビビッてしまうのですが、もし国税の指摘に納得いかない点があるのなら修正申告には応じるべきでないと思います。
修正に応じた時点で、自ら誤りを認めたことになりますから、
その時点で「終わり」です。
納得いかないままに納めた税金は一生戻ってきません。
ところが「更正処分」に対しては、不服申立てができます。
納得いかない部分について、国側にもう一度考え直してもらうことができるのです。
不服申立てはまず税務署長に対してします。
だから、国税はなるべく更正をさけて修正するよう言い含めてきます。
不服申立てされたら、やっかいですから(^_^;)
(e) 橋下弁護士はどうすべきだったか
橋下弁護士の話に戻りますが、
本当に支出があって経費として認めてもらいたいのなら、
「どうぞ更正してください」と言うべきでした。
その処分について、不服があればとことん闘えばいいんです。
異議申立→審査請求(ここまでが不服申立て)
→(ここから訴訟)地裁→高裁→最高裁・・・
最後まで闘えば良かったんです。
そうしなかったところを見ると
(ここから先は私の勝手な推測ですが)、
ひょっとしたら橋下弁護士にも後ろ暗い部分があったではないでしょうか。
なんてったって、「不法団体」ともおつき合いですから(笑)
裁判になれば、どうしたって当事者が公表されてしまうので、それを避けたかったのでしょう。そこはやっぱりちょっと怪しいです。
(c)で、「『見解の相違等により経費の一部を否認された』
と表現するのが正しい」と書きましたが、
「見解の相違」でなく「見解の相違等」である理由もここにあります。
自分でも納得せざるを得ない部分があったのでしょう。
そんな訳で、こうした話をまとめると、
橋下弁護士の申告は犯則事件となるような脱税ではないにしても、自分で修正を認めざるを得ない部分があるようなので、
グレイ度10%ぐらいなのかな〜と考える次第です。
ちなみに、刑法面を考えるとグレイ度はさらにアップします(笑)
(番外) 税法に詳しい弁護士?
新聞の見出しに
「橋下弁護士、申告漏れ 税法…詳しくなかった?」
などと、ほとんど揶揄状態で書かれていますが、
いくら法律家とはいえ税法に詳しい弁護士は希有の存在です。
民法、刑法だけでも得意不得意でるくらいですから。
税務訴訟専門の方を除いては、ほとんどいないでしょう。
というより、いてほしくないですね。
私がおまんまの食い上げになっちゃいます(爆)
(補足) 橋下弁護士、「更正」知らなかったか!?
上の(e)で、橋下弁護士は修正申告に応じたという点で、10%のグレイだと言いましたが、
もう一度考え直すと、橋下弁護士が「更正という手段を知らなかった」という可能性もあることに気づきました。
調査にあたり、税理士をたてなかったそうですから。
でも、もし、そうだとすると次のようなことも言えます。
一つは更正を知らないで修正に応じたことは
税務面でより白に近くなる可能性が高くなること。
もう一つは、更正処分とそれに対する不服申立てといった手続は、税務争訟に限らず、もっと一般的な行政訴訟、あるいは民事訴訟の手続にも通じるわけで、それを知らないということは、
完全に弁護士失格ということ(爆)
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S先生、大変なお手間を取らせて相すみませんでしたm__m
お陰でスッキリいたしました(*^^)v