店番をしていると、大手住宅メーカー、というより空室保証一括借り上げの会社の営業マンがやってきた。
「この度、河辺に新築物件が完成しましたのでご紹介に伺いました」と言う。首都圏にお住まいでなければ位置関係が解かりにくいと思うが、立川からは電車で(直通があっても)24分かかる。うちあたりに部屋探しにいらっしゃるお客さんが「河辺でもいいです」とは言わないものだ。いくら家賃が安くて新築でも、である。都心まで通勤するとしたらその24分は大きいし、乗り換えも不便だ。
営業マンは「2ヶ月はフリーレントで、ADも付きます」と言う。
AD・・・、当サイトで何度か取り上げてはいるが、一般に聞き慣れない言葉で、営業担当者ボーナス、である。お客さんを案内して契約になったら、正規の仲介手数料とは別にボーナス(たいていは1ヶ月分とか半月分)を出しましょう、という制度である。
以前に行われた宅建協会の支部会報誌の為の座談会でも、「問題があるのでは」と他の業者さんからも意見が出された。うちの支部には、そう考える業者さんも少なからずいるようで嬉しかった。
フリーレントもADも、どちらも私が大嫌いな制度、である。いくら借り手市場であっても、部屋を借りて住むのだから「タダは嬉しい」と思わずに、払うものは払えばいい。私は、家賃の値引き交渉とか、日割り発生日の交渉は、妥当な範囲内ならかまわない、と思っているが、フリーレントまでいくと「やりすぎ」だと思う。だいいちフリーレントは部屋を決める際の決定打にはならない。なる人がいたとしたら、それだけのお客さん、ということになる。家主さんや管理会社が「時代を読んで柔軟に対応している」のでなく、空室を早く埋めたいばかりに「なりふり構わず卑屈になっている」だけだ。
ADについて言えば、お客さんが部屋探しに来て、希望条件に合う物件が5件出てきたとしても、営業担当はAD付きかどうかで「どの物件を勧めるか」を判断するようになるだろう。全額が担当営業のボーナスになるか会社と分けるかは会社によってマチマチだと思うが、ADが有り難いことに変わりはない。そうすると、お客さんの希望は蔑ろにされてしまう恐れがある。
ちょっとベテランの営業マンなら、お客さんの希望に合わせて部屋を紹介するのでなくAD付きの物件にお客さんの希望を誘導する、なんてことは簡単に出来るし、それを奨励しているようなものだ。
この業界が不況に喘ぐようになって久しい。だが、自分たちが食っていく為に「何でもアリ」にしてしまったら業界全体の信用も傷つくし将来はない。お客さんも、市場原理(競争社会)を自分に都合よく解釈せず、自分が借りて使っている部屋の家賃くらい当たり前に払ったほうがいい。「家主がいいと言ってるんだからかまわない、どこが悪い」と言われたなら「アンタの頭が悪い」としか言いようがない。自分の立ち位置を引いて全体像を見なければ真の損得は解からない。
アパート経営も立派なビジネスだから、ADの原資を家主さんが身銭を切って払う、なんてことはない。何か他の事業でもやっててそちらの利益から回したり貯金から出す、なんてこともしないものだ。例え一時的に身銭を切っても、長い目で見れば家賃から回収するに決まっている。もちろん、通常は物件を管理している不動産屋が出すこともない。フリーレントも同じことである。
どちらも「まやかし」の制度なんだと思う。
今はまだ「AD付き物件」は少ないが、そのうち、「礼金0」が主流になりつつあるのと同じように、どの物件も「AD付き」になることも考えられる。国土交通省や宅建協会が主導して充分に実態を調査し、指導性を発揮して頂きたいもの、と思う。
営業マンに、「うちは(こういう理由で)AD付きやフリーレント期間が長い物件はお客さんに紹介しません。そんなふうに見かけの損得をウリにして入居者を募集するのでなく、その分で設備を改善してもらったほうがいいと思います。ADを付けても客付け業者が喜ぶだけでお客さんの為にはなりませんから」と言って、資料も受け取らなかった。営業マンは苦笑いして出て行った。
私は、当社の管理物件の家主さんに対して「ADを付けましょう」などと提案したりはしない。そんなことをすれば「私の能力では限界です」と認めるようなものだし。ただし、フリーレント、とまではいかなくても、日割の発生日を後ろにずらして頂くようお願いすることはしている。何でも「程度問題」なんだと思う。
ま、だいたいが新築の募集時からそんなに譲歩しているなら、中古になったら「退去まで家賃は不要」などと言い出しかねない
アパート経営を始めてかれこれ16年になります。
その間、入居者を紹介してもらう為の費用がかなり高額になってきました。ADをつけるぐらいなら、多少のリスクが上がっても、不動産会社を通さずに直接入居者を募集しようかなとも考えてしまいますね。
不動産会社を通して募集しても、それなりにリスクはあるんですから。
私の場合は、管理会社からADもフリーレントも両方勧められましたが、どちらも断り、募集条件を下げて決めてもらいました。
入居者様の為にできることを考えるのが一番よさそうですね!
フリーレントもADも、「空室を埋める為の努力の方向が間違っている」と思います。管理会社からすれば、自分の懐を痛めないで家主さんにADの費用を負担してもらえば楽ができますが、それではプロの仕事とは言えません。
フリーレントやADは、「テストの為に真面目に勉強するのでなく、テストの為にカンニングペーパーを作るようなもの」ですね。
実のところ、当社にも長く空いている部屋があって、家主さんの財力には開きがありますから、この家主さんには「この設備の新設を検討して頂こう」、この家主さんには「条件を緩めて頂こう」、この家主さんには「当面は何も言わずにおこう」、と、家主さんの経済状況や人柄に合わせて相談する内容を変えています。それすら、ビクビクもので、大変に気を遣います。こちらは「良かれ」と思って提言するワケですが、費用が掛かる、或いは収入が減少する話ですから、ま、当然です。
フリーレントもADも入居者募集をしている管理会社が楽できるだけのもの、ADは客付け業者(営業担当)の収入が増えるだけのもの。そしてフリーレントは(設備の充実が疎かになったりして)入居者が得するように見えて実際には得することになってないもの、であります。
消費者も賢くならないといけませんね。実態は朝三暮四ですもんね。