姉歯元一級建築士に懲役5年の実刑判決が言い渡され、そして未だにこの問題に関する私の過去ログへのアクセスが相当数ありますので、再度まとめてみたいと思います。
この事件がニュースになった時、誰が何をどれだけ負担すべきか、真っ先に考えました。
先ず、各人(各法人)が責任の重さと比率によって相応に負担すべきで、「国」はひとまず置いておいて、私の価値観では、建築業者、販売会社、検査会社、購入者、金融機関、の順になります。ここに「国」を入れようとすると無理があります。「国には責任がない」というのではなく、「国の責任」は全てに被さってくるからです。
責任の重さに応じて、とは書きましたが、それだけで振り分けると逆に不合理になります。杓子定規に責任に比例して負担を強いると「払えない人(企業)」が出てきて新たな不公平が生じるからです。
そこで、もう一つ、「現在の資金力に応じた負担をする」という考え方が有っても良い、と私は思います。そうすると、誰が最も負担すべきか、の順番はガラッと変わってきます。
私は、「銀行」が最も多く負担すべき、と考えます。
責任順位では「金融機関」が一番後ろに位置しますが、現実に一番多くを負担すべきは「金融機関」、つまり「銀行」だと考えます。
メガバンク合計で、今期の経常利益は13兆円とか。この数字は日本の国家予算の15%にも相当します。政策的にも法律的にも国から充分すぎる保護を受け、そして金融危機の際には税金から巨額の資金を注入して助けてもらい、国民の預金を元手に利息を稼いでいるのに、「うちは知らない。追加担保を出せ」は無いものですよね。
住宅ローンを組む時、当然に契約書には「担保物件が抵当割れを起こした時には債務者は新たな担保を提供すること」と在って、金融機関は契約内容を盾に「直ぐに新たな担保を差し出せ」と言ってきたハズです。一見それは「正しい」ように思えますし法的には問題ありませんが、この件に関しては必ずしも正しいとは言い切れません。
これが自動車ローンや学資ローンであったなら、事故で車が大破しようが大学を中退しようが全額返済するのが当たり前です。銀行には何の責任も無いからです。では、住宅ローンはどうでしょう。
銀行の審査部や融資部は何をやっていたのでしょう。「必要書類だけ揃っていたならメクラ判を押す」のがお仕事なんでしょうか。
銀行は、当然に借り手の内容だけでなく、担保物件や建設会社、販売会社の審査もしているハズです。それが欠陥マンションであったというなら、銀行の審査部の目は節穴だった、ということになります。購入者が「住宅ローンが組める、ということで物件を信用してしまった」としても当然です。銀行には全く責任が無い、などとどうして言えましょう。欠陥担保物件であることを見抜けなかった責任が当然に発生します。
「追加担保など出せるハズも無い債務者に、追加提供を要求する」ということは、「うちには一切責任は無い」と言っていることになります。銀行に責任、無いワケがありません。まったくもって理不尽です。ま、昔の恩を忘れられるから銀行やってられるんでしょう(*^^)v
それと、
アパートを借りる時も、おカネを借りる時も、契約書は「貸す側が用意した書式」を使います。要するに「この条件を受け入れるなら貸してあげるよ」という内容です。自分で作ったルールを盾に、「約束していたことだから」と言うのでは、法律上は問題が無くても道義的には問題が有る、と言えます。銀行からすれば、「貸したカネは返すのが当たり前」、ということでしょうが、それは、「一連の話の中で物事を部分的に切り取った上での話」です。フェアではありません。
別の観点から、
当該マンション購入者数は210世帯、と伺っています。もし、平均して3千万の住宅ローンを組んでいたとして、総額はたかだか63億です。更に増えていたとしても100億には達しないでしょう。購入者が全員同じ銀行でローンを組んでいたワケではないでしょうから、主要銀行で割れば一行あたり10億ちょっとの負担です。今の銀行にとって、10億くらいの損害は「蚊に刺された」ようなものです。
もののついでに、私はこんなことも考えてました。
どこかの銀行がいち早く調査して「当行は当該物件の住宅ローンの支払いを猶予もしくは免除いたします」って発表すればいいのに、と。こういうことで株主代表訴訟を起こされるとは考えにくいし、これから新たに住宅ローンを組もうとする見込み客からの問い合わせも増えるだろうに、と。私が頭取なら、そう指示を出したでしょうね。ま、なれないから言ってる、ということもありますが^_^;
で、本当は、こうすれば良かったのでは、と思っています。
「購入者は」
既に支払った頭金やローンに関しては諦める。
移転先への引越し費用や契約金、家賃は自分で支払う。
「金融機関(銀行)は」
残りのローンの支払いを免除(損金として処理)する。
「国は」
当該建物の取り壊し費用を負担する。
「建築会社および販売会社、そして検査会社は」
法的な処罰とは別に、可能な限り弁償して償う。
補強で持ち堪えられる建物に関しては補強費用を負担する。
現実には(期限付きですが)家賃の補助だの不必要な保護をしてますね。購入者は必ずしも「純然たる被害者」ではないハズですが。
結論の結論ですが、「銀行が残債の支払いを免除する」ことで、金銭的には大方片付いた話、だと思います。そして、厳しい言い方ですが、購入者の多くが「建設会社や販売会社に全額補償させよう」とし、国や行政に保護を求めたのは判断の誤りであって、甘えです。
それぞれの立場で「自分の責任と為すべきこと」を冷静に考え行動し、責任を果たさなければ、物事の道理からも外れてしまうし、解決の糸口は見出せないものでしょう。