2011年06月25日

国会の会期延長がもたらすもの

国会の会期の延長幅が、当初の見込みの50日間から70日間になった。それを国民は「ああ、その分、菅さんが総理に居座る期間が延びるのか」くらいにしか捉えていないだろうし、正直なところ、私もそんな感覚でしかなかったが、実は我々の業界にとっては、その僅か20日間の幅が死活問題になりかねない、とのこと。

そう指摘しているのは、先日の研修会の講師、高川弁護士である。

昨年、「賃貸住宅居住安定法案」、いわゆる「追い出し禁止法」が参院を通過し、現在は国会で継続審議になっている。もしこのまま衆院を通過してしまうと、日々「悪質で不誠実な滞納者」と対峙している我々賃貸管理業者や家主さんからすれば死活問題になる。現状では未だ審議入りはしていないものの、残りの継続審議法案数が1件ずつ片付いて減ってきているので、会期の延長幅が50日間になるか70日間になるかで大きな差が出てくる、と言うのだ。

当サイトで何度も取り上げているが、この法案の中で特に問題になるのが「家賃債務保証業者、住宅の賃貸事業者(一般の家主も含む)、賃貸管理業者による悪質な取立て行為の禁止」を謳っている部分。法案によれば「手段に関わらず脅迫的な手段での取立てを禁止し、具体的には、鍵の交換による締め出しや家財など動産の持ち出し、深夜早朝の督促、また、これらの行為を予告すること」となっていて、「支払わないと訴える」もNGになる可能性が高い。それについては、弁護士がそう警告するのと家主や管理会社が警告するのでは違いがあるのかも知れないが。

悪質な滞納者は、電話しても出ないし、明らかに着信記録が残っているのに折り返してもこない。手紙を送っても返事は無く、ドアに「連絡ください」と貼紙してきてももちろん連絡してこない。仕方なく内容証明を送ってもそれすら受け取り拒否されて戻ってきたことが二度ある。それで「どうやったら取り立てることが出来るのか」、国会議員さんに教えてもらいたいものである。こっちは大人しく請求していて、無視を続ける滞納者に対して既に万策尽きてたりする。「裁判で闘え」ということなんだろうけど、滞納額に対して支出が大き過ぎるし時間も掛かる。何より「裁判で勝つ」のと「支払ってくれるかどうか」は全く別のものである。一番悪いのは滞納していながら誠実に対応しない滞納者である。出発点は滞納なのだ。

自分が督促を無視して連絡をしなかったくせに、「怖くて電話できなかった」と言うだろうし、昼間に何度電話しても出ないから朝や夜(せいぜい10時くらいまでに)電話しているのに「早朝や深夜にも電話してきて怖かった」と主張するだろう。手紙の文章にも気を遣うことになる。全て「紳士的で穏やかな内容」でなければならず、何度も送ってはいけないことになる。要は、相手が「威迫された」と感じたらアウトであって、それは「滞納者がどう感じたか」に掛かってくる。穏やかに請求して支払わなければ段々と強い調子で出るものだが、それがダメというなら打つ手は無い。

「悪質滞納者天国」を推進する法案なのだ。

行き過ぎた昨今の人権保護の風潮そのままに、悪質な滞納者の保護はするが、善良な家主や不動産業者の人権には全く配慮がされていない悪法、「人権ボケの極み」とも言える法案である。

文書、電話、貼紙などで相手が「威迫された」と感じたとする主張が認められたなら、督促者が罰金や懲役刑を課される可能性もある。


ところで、私は高川弁護士について、とても感動している。一般的に法人の顧問弁護士というのは「何かトラブルに巻き込まれた時に対応してくれる(だけ)」くらいに思っていたのだが、普段から官報などにも目を通し、業界に関連した法案の審議が現在どこまで進んでいるのか、ということにまで注意を払っていてくださっているのを知って実に有り難く思った。私の認識不足であって、「どの顧問弁護士もそういうもの」かも知れないが、顧問料に見合った仕事をしていない弁護士のほうが多いのでは、と思っているからだ。非常に優秀で、顧問弁護士として望みうる最高の先生だろう。それは「専門家でない一般の人に、難しい問題を解かりやすく解説できる」ということでも判る。そういうのは「頭が良くないと出来ない」ことだから。


その高川弁護士、講演で別の重要な問題にも触れていた。

データベース事業者に対する規制法案についてである。その法案には「悪質な滞納者のデータを登録するには本人の了解が必要」との条件が付いていて、滞納情報をデータベースに登録するには滞納者に「あなたの滞納情報をデータベースに登録してもよろしいですか?」と訊く必要があり、次の部屋を借りられなくなる可能性がある滞納者が快く了解するワケがなく、何ソレ!?という内容である。

高川弁護士によれば、その対策として「契約時(申し込み時)に、滞納が有っても無くても、つまり良い情報も悪い情報もデータベースに登録する、という条件を最初から付けておく」というもので、借りる時は誰もが滞納することになると思ってないだろうから了解するだろうし、もし拒んだら審査を通さなければ良い、とのこと。ただし滞納者が後で気付いて「契約した時はOKしたけど今は嫌」などと言い出しかねないので、そこは少々不安なのだが・・・。

それでも「滞納を未然に予防する効果は充分に望める」と思う。上手く利用すれば「データベースに載せられたくなくてちゃんと支払ってくれる」かも知れない。ま、あくまで「かも」ではあるが。

いずれにしても、これらの法案は、「人権保護の名の下、単に悪質な滞納者を蔓延らせる効果しか生まないもの」でしかない。

一部の悪質業者や法律を理解していない家主の行為を取り締まれば良いのに、それが困難だから「全部に網を掛けてしまおう」というお粗末な法案である。これでは法令を遵守している者は堪らない。

我々にとっては延長国会で、要注意、要注目の法案である。

posted by poohpapa at 06:58| Comment(8) | 宅建組合の行事と活動 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
凄い法案ですね。
消費者保護も度が過ぎるとこんな事になるのですね。

昨日の話の続きですが、義弟は最悪の奴です。義弟の実家でもあちこちから連絡があり迷惑している模様です。そいつのかみさんも義弟に劣らず酷い女です。私の家内の妹ですが、遺産相続の争いで私共から1千万円をせしめたにも拘わらず、家賃の支払いはせずに、亭主に知らせず長男の所に転がり込んでいる模様。貧すれば鈍するというのでしょうか?恥も外聞も無い様です。
こんな奴らと親族である事が恥ずかしい。

世の中には「菅」見たいに破廉恥なのが沢山居るんですね。

お仕事とは云え、こんな奴らと付き合わねばならない御苦労お察し致します。
Posted by 貧乏暇だらけ at 2011年06月25日 10:17
貧乏暇だらけさん、こんにちは

お顔も存じ上げないのに失礼なことを申し上げて、それを寛容にお赦し頂けて有り難うございます。文面から察するに、相当に迷惑を被っているご様子が窺がえたので思い切り書いてしまいました^_^;

菅直人が総理の椅子にしがみつくのは見っともないことですが、こんな形で被害を受けることになるのは堪りません。こんな法律が施行されてしまうと賃貸業から下りてしまう健全な家主さんも現れることと思います。巡り巡って、善良な借主さんもまた迷惑を被ることにもなりかねません。

たしかに、あくどい手口の業者や、「いくら家主といってもそれはヤリ過ぎだろう」という家主がいるのも事実ですが、契約内容を守らず不誠実の限りを尽くしている悪質な滞納者まで(善良な入居者と同様に)保護してしまうのは不公正で行き過ぎですね。

誰が考えても、「アンタが滞納してるって情報をデータバンクに登録するけどいい?」と訊いて、「しかたないですね、それもこれも自分がいけなかったのですから」と了解する滞納者、いるワケがありません。だいいち、そう言ってくれる人なら悪質な滞納者にはなりません。まるでブレーキの無い車を製造するようなものです。

アメリカのように、「契約を守らないなら荷物を放り出されても文句は言えない」という社会のほうが管理会社からすると有り難いですね。
Posted by poohpapa at 2011年06月25日 11:47
家賃という対価を払う事で家主の物件に住まわせて
戴いている以上、どんな事情があったにせよ、
家賃を払えなくなった場合は、連帯保証人もしくは
本人がサラ金に借金してても家賃を支払うのが
至極真っ当な筋道だと思います。
仕事をしている人ならその収入から家賃を支払うのは
普通の事であり、故意に支払いを逃れるのは
家主を騙している事と同義であり、
詐欺に近い犯罪と考えるのが当然の考えでしょう。
生活保護を受けているなら、その保護費から支払えば
いいだけの事ですし。

家賃が払えない→家財道具を住居から運び出しロックアウト
するというアメリカの契約社会の方が厳しいけ
ど筋がとおっているというのは同意します。

貸借人の権利が保護されるのは家賃をきちんと支払っている、
周囲に迷惑をかけていない人に適用されるべきであって、
滞納者、周囲に迷惑をかけている人には一切の
慈悲をかけるべきではありません。
Posted by ブロンプトン at 2011年06月25日 22:43
ブロンプトンさん、おはようございます

ご意見、全く仰るとおりです。日本では、ひと度滞納が始まると、貸主側は大変な苦労を背負うことになります。どうして、家賃を踏み倒している人間に「居住権」が認められるのか、全く理解に苦しみます。「居住権」は、ちゃんと家賃を払っている人にこそ認められるものですね。

アメリカのように、荷物を放り出してロックアウトする、というのが日本の社会には馴染まず問題アリ、というなら、滞納者がどういう対応をしてきているのか、正当に評価して判断を下すべきで、善良な入居者も悪質な滞納者も同じ権利が認められる制度、さらにそれを推し進めるかのごとき法案ができるなら、世も末です。

法曹界も政治家も、何かと言えば「人権」「人権」で、本当に社会常識が欠如していますね。「人権」を叫んでいれば「自分は知識層」と勘違いしているかのようです。弱者の為に「人権」を主張するなら、本当の弱者は「家賃を何ヶ月も滞納している入居者」でなく、家賃が支払われずに居座られている家主、ついでに言うなら、その対応をタダでやらされる管理会社、だと思います。

当たり前のことを言い、正当な督促をしていて処罰されるなら、それは法律が間違っていると言えるでしょう。

って、熱くなってスミマセン^_^;
Posted by poohpapa at 2011年06月26日 08:29
国会の経費が3億/日だというのが本当であれば、70日間分で小さな町くらいは家を建て直せそうですね。
仮説じゃなく。
いくつの法案が審議中なのか知りませんが、なんで法案の審議にそんなに時間がかかるのかさっぱりわかりません。
Posted by ハリケーン at 2011年06月26日 23:00
言うべきことを言わん奴に限って
いらん事を言う
やるべきことをやらん奴に限って
無駄な行いに走る

こういう
<ろくでなし!>
一番いけない イケてない!

Posted by だっちゃん・みかんの母 at 2011年06月27日 03:36
ハリケーンさん、再び、おはようございます

私も、なんでそんなに審議に時間が掛かるのか不思議です。というのも、実際には各委員会で充分な審議を尽くされているハズなのですし、本会議で議決する際に、関係した委員会の所属議員でなければ専門外(役目外)で詳しいことは解からないのですから、フリーパスになりそうなものですし。

ま、時間が掛かっているのは本会議ではなくて各委員会で、なんですけど、本来の議題以外の議案が出されるのが許されるのは予算委員会だけですから、しかも優秀な官僚が作った内容が各委員会で滞る、というのは解せません。もちろん、全てスンナリ通る国会、というのも怖いものがありますが。

ただ、今回の法案のように「時間切れで廃案」になってくれたら良いものもあるので、時間の浪費を一概に非難できなかったりしますが。
Posted by poohpapa at 2011年06月27日 08:21
だっちゃん・みかんの母さん、再び、おはようございます

<<言うべきことを言わん奴に限って
いらん事を言う
やるべきことをやらん奴に限って
無駄な行いに走る

うん、いいこと言う(*^^)v

座布団5枚、いや8枚差し上げます。
Posted by poohpapa at 2011年06月27日 08:27
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]