翻訳って、本が当たればそんなにも儲かるモンなんですね(*^^)v
「ハリーポッター」翻訳家かつ出版社社長の例の節税問題で、図ったように公認会計士のSさんからメールを頂きましたのでご紹介。
長くなりますが、さすがプロの視点から見ると、私のような素人考えとは一味も二味も違います。メールは三通も頂きました。
一通目
<日本人なら・・・>の記事について(笑)
私も昨日から気になっていろいろ調べていたところでした。
とりあえず、日本人だからとか、国籍がどこにあるかとか、は考えずにあくまで税法に則して考えてみます。
松岡さんの日本での居住の実態が、いまひとつ報道だけではわからないので、断定的なことはいまの段階では言えないのですが、直感的には「安易な課税逃れ」という印象を私は受けました。
所得税法は個人については、日本人だから日本に税金を納めよ、という考え方はしておらず、日本に住んでいる人(居住者)や、居住者でなくても日本で所得のある人は所得税を納めよ、という言い方をしています(所得税法第5条第1項・第2項)。
これは憲法30条のように「国民は納税の義務を負う」という言い方とはちょっと違っていて、たとえば外タレが武道館コンサートで荒稼ぎしたときのギャラも日本の所得税の課税対象になります。
「居住者」は、国内に住所がある個人、または現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいうとされ(所法2条1項3号)、「住所」は民法22条に定義する「各人の生活の本拠」と同じ意味を差すと考えられています。
では、国内に住所を有するかどうかの判定ですが、これには明確な規定はなく、判例では「客観的な事実、即ち住居、職業、国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有するか否か、資産の所在等に基づき判定」すべきということになっています(最高裁昭和63年7月15日判決)。
こんな漠然とした判定方法ではわかりにくいのですが、判決文のほかのところを読むと、たとえば、国籍が日本国籍かどうか、国内に持ち家等があるか、家族がその持ち家等に住んでいるか、一年における国内での滞在日数が何日か、また国外のどこかに住所があると主張するならばその住所とされる国に何日滞在していたか、国内企業の代表取締役といった重要な地位にあるか、などいろんなことが判断の材料とされます。
そのほかにも日本に出入国する際、どの空港を利用しているかなども考慮に入れられているようです。たとえば、出入国地が成田ばかりであれば、やっぱり東京周辺に生活の本拠があるんだろうというような判断がなされたりします。
また、国内外で活躍する人については、国外で継続して一年以上居住することを通常必要とするような職業に就いていること、外国籍を持ち永住の許可を受けている(国内に親族がいない場合)などの条件が揃えば、国外に住所があると推定されます(所得税法施行令15条)。
それで、ハリポタ松岡さんの話に戻るのですが、松岡さんは翻訳家であると同時に静山社という日本の出版社の代表でもあるわけで、静山社の経営が松岡さんなくして成り立たないような状況である限り、松岡さんは「居住者」と考えて良いように思えます。
ご家族がどちらにお住まいなのか、スイスでどのようなお仕事をされているかなどは情報が不足していてわかりませんが、すくなくとも静山社の経営を考えれば、所得税法施行令15条(国外に住所があると推定される規定)の要件には当てはまらないのではないか、と考えるわけです。
松岡さんは国税に対して不服申立てをしているようですが、仮に訴訟に発展しても、勝てる見込みは少ないだろうというのが、現在知りうるところから判断した私の結論です(ただし、日本とスイスの相互協議の結果次第では状況が変わるかもしれません)。
ところで、スイスの所得税は最高税率が40%とのことですが、ここで思うのは、所得税にしろ、法人税にしろ、いまの日本のこの税制のままでは、優秀な頭脳や優良企業の国外流出は避けられないだろうということです。
中途半端に行ったり来たりの人もいるでしょうが、そのまま国を捨てる人もたくさん出てくるんじゃないでしょうか。
もちろん日本よりも重税を課す国は他にもあるでしょうが、これも国から国民への行政サービスとのバランスによります。税は重くても行政が充実していてバランスが取れていれば、国外流出は阻止できます。
しかし、いまの日本は税負担に比べて行政があまりにお粗末。政治家や官僚の中に国を売る者まで出てくるようでは、とてもバランスが取れているとは言い難い。
少子高齢化が進む中で移民の受け入れを真剣に考えなければならない時期に来ているというのに、優秀な純粋日本人の流出に歯止めがかけられないとなれば、国の行く末はとても明るいものとは言えないでしょう。
私自身、日本の国土も食べ物も好きですし、言葉も日本語しか話せません。本音で言えば、祖国に住み続けたいです。でも、ミサイルが飛んできても何もできず、政府はますます重税を課して、役人ばかり肥え太るような状態がこのまま続くならば、日本に住み続けることに何の夢も持てなくなります。
まず、自分自身が何かできることを始めなければとは思いますが、それも断念せざるを得ないようなら、ホント、どこか逃げちゃいますよ(^_^;)
二通目
<<私としては、「先ず、税金は日本に納める」、そのうえで「節税対策をする」、というのが基本かと思います。(私のメールから引用)
そうですね。
これは個人なら国籍に関わらず日本国内で所得があれば、また法人なら外資系であっても国内に本店があれば、日本に納めるというのが基本です。
<<日本は税金が高いから便宜上「海外に移住したことにして」、というのが×ですね。(私のメールから引用)
まったくその通りです。「便宜上」というのはいけません。
以前にもお話ししたと思いますが、税法は形式より実質を重視しますから、形式だけ「移住」なんていう中途半端な輩は当然にペケです。
どうしても日本に税金払うのがイヤで移住したいんなら、もう日本に帰ってこないぐらいの覚悟で出てほしいものです。
昨日のメールでは、「居住者」であると判断された判例のことを書きましたが、逆のケースもあり、盆暮れ正月GWだけの帰国では「居住者と認められない=非居住者」という判断が下った判例もありました。
三通目
ハリポタ松岡さんと居住者のお話、いろいろな意味でむつかしいですね。私としては理屈はだいたいわかっても、松岡さんについての情報が少ないのがちょっとつらいですね。
poohpapaさんは「日本人ならば、日本に」という思いがお強いのでしょう。
別にそれが間違っているのではなく、どちらかというと憲法の考え方だと思います。そして各税法はそれとは違った考え方をしているにすぎません。
かなり大雑把なたとえですが、憲法の考え方は経済指標でいう国民総生産(GNP)に近いのではないでしょうか。
片や税法の考え方は国内総生産(GDP)に近いのでしょう。
そして国内での所得に課税するというのがいまの税法の考え方です。
海外との取引が多くなるにつれ、近年ではGDPのほうを経済指標として重視するようになっていると聞きます。
やはり実態をなるべく正確に把握するにはGDP的発想のほうが便利なのでしょう。
交通機関や通信手段の発達で、日本人に限らず、世界を股にかけて活躍する人は今後ますます増えてくると思います。
松岡さんのようにどちらの国で税金を納めるべきかでもめごとを起こす人、会社も増えてきそうです。
そういう状況では、昭和時代の最高裁の判例に頼っているようでは、やはり充分とはいえないので、もう少し明確な基準をつくることも必要なのでしょう。
あ、ちなみに松岡さんについてですが、この方は日本にまったく税金を納めていないわけではありません。
おそらく私と妻と義姉とうちの妹とうちの父と私の友達全員が納める税金の合計よりも多額の税金を日本に納めているハズです。
日本で発生した著作権料については、出版社から著作権者に報酬を支払う時点で所得税を源泉徴収(基本的に10%)されます(所法204条、205条)。
特に非居住者に対しては居住者よりも高い税率(20%)が適用されます(所法212条、213条)。なので源泉所得税だけでかなり高額の税金を納めることになります。ただし、申告がスイスなので追加で日本に納めるべき税金を納めていないのです(スイスへは、日本に納めた源泉徴収額を差し引いた税額を納めます)。
もちろん、だからといって実態とはかけ離れた外形によって税金を納めればいいという話にはなりません。
日本に生活の拠点があるならば、やはり日本で申告すべきで、安易な課税逃れはやめてほしいと思います。
うん、きょうはよく寝たから頭が冴えているかもしれない(爆)
この問題、私が何故不快に思っているか、と言うと・・・、
「うちに来たお客さんが、資料を何枚もコピーさせて、あちこち案内もさせて、挙句に他の不動産屋から申込書を入れるようなもの」だから、ということです。
どの不動産会社から申し込みを入れるかはお客さんの自由です。
ただし、自由ではありますが、例えば当社で紹介した物件を(当社を排除して)家主と直接契約した場合には、当社が借主に仲介料の請求をすることは法律で認められています。他社で申し込みをした場合は・・・、う〜ん、微妙ですね。
なぜなら逆のケースもよく有りますから。「別の不動産会社で紹介された物件、気に入ったんだけど担当者の感じが悪かったから、こちらで申し込み出来ますか?」、と訊かれるケースです。
うちの場合は、お話を伺って、有り難く受ける場合と、案内した業者に戻るよう勧める場合があります。利益は欲しいけどトラブルには巻き込まれたくないもので。
で、この松岡さん、日本で生まれて、今まで国や地域から様々な恩恵を受けているワケですよね。だとしたら、税金を納める先は日本であって、その上で節税対策を練る、というのが筋でしょう。
申し込みは「お部屋を案内した業者」から入れて、そのうえで家賃や日割り発生日の交渉をする、というのが当然です。松岡さんは案内までさせておいて他の業者から申し込みを入れたのと同じです。案内した業者によほどの落ち度があったなら話は別ですが、「多少税金が高い」という以外で日本政府や地方自治体が松岡さんに何か不利益を与えていたり、危害を加えていたのでしょうか?
どちらで納めた方が安くあがるか、と考えて当然、ではありません。TVの司会者やコメンテイターが、「国ももう少し考えないと、優秀な人材や高額納税者が海外に拠点を置いてしまうことになる」などと述べていますが、とんでもない間違いです。私からすれば論理のすり替えでしかありません。それでは「(国が)ミニスカートをはいているからセクハラ(節税)される」、と言ってるようなものです。
社会が、「便宜上生活拠点が海外にあることにする、というやり方で節税対策をする日本人」に対して、もっと厳しい目を向けて監視するようにならなければいけません。
私としては、「なら1円も税金を納めなくてもいいから、日本から出て行って二度と帰ってくるな!」、と言いたいくらいの話です。