2004年03月21日

行きつけの床屋さん

通常、賃貸仲介の仕事をしていて、申し込みをキャンセルしてきたお客さんが、相応の責任を取ってくれることはまず無い。こちらも、特別な理由が無い限り、「何らかの責任をとってくれ」、と要求することもない。

私が賃貸仲介業を始めて間もなく、床屋向けの店舗を探している、という30代半ばのお客さんが来た。たまたま、付き合いのある住宅メーカーで直接管理している空き物件が条件に合っていたので紹介すると、一発で気に入ってくれた。申し込みを入れてもらったが、資金繰りの関係で、契約はどうしても1ヶ月後になると言う。私は、「この人なら間違いない」、と見て、管理会社に1ヵ月後の契約を了承してもらった。普通なら有り得ないことである。通常はキャンセルを防ぐため、審査が下りたら1週間以内に契約をしてもらうことになっている。待ってくれたのは、その住宅メーカーが抱えている賃貸トラブルをいつも私が協力して解決しているからに他ならない(と思う)。

ところが、契約直前になってお客さんからキャンセルの電話が入った。
奥さんが高血圧で倒れて入院してしまったからお店どころではなくなった、とのことだ。このお客様は嘘をつく人ではないから、私も納得してすぐ管理会社に連絡して了承してもらった。

頃合を見て、私はお客さんに電話をした。
「大変言いにくいことですが、我々業者は良いとして、1ヶ月も空けて待って頂いてた大家さんにはその間の賃料をお支払い頂けないだろうか」、と。
そのお願いは、管理会社の依頼を受けて、ではなく、私の独断でしたことである。
うちと大家さんは直接の接点は無いし、そこまでする義務も無かった。お客さんが「勘弁して欲しい」、と言ったなら、それで終わりにするつもりであった。

結果は、私の予想通りの返事であった。
「けっこうですよ。大家さんに迷惑をお掛けしたんだから当然だと思います」、と。
契約を1ヶ月待った私の目は誤ってなかったんだ、と嬉しくなった。

すぐに大家さんの口座に1ヶ月分の賃料10万円を振り込んでもらい、その旨、管理会社である住宅メーカーに連絡すると、担当者も驚き、喜んでくれた。
15年の賃貸業の中で快く賠償してくれたのは、後にも先にもこの床屋さんだけである。
奥さんの治療費もかかる生活費の中で、10万円を工面するのは大変だっただろう。

「美しい話ではないか」、と、いたく感動した(自画自賛ともいう)
だが、管理会社は、その美談をブチ壊しにしてくれた。

私からの連絡を受けた住宅メーカーの担当者は、10万円の領収証を持って大家さんのところへ集金に行ったのだ。「うちも広告代が掛かっているので、キャンセルしたお客さんが振り込んできた10万は当社に戴けないか」、と。
これは、何年も後にその大家さんから直接聞いた話である。
「書き上がっている領収証を目の前に出されては断れなかった」、と大家さんは笑っていたが、私は納得がいかなかった。住宅メーカーは明らかに悪徳不動産屋の上を行っている(爆)

その後、私も隣市の現在の会社に移り音信が途絶えていたが、数年後、偶然、お店にひょっこりその床屋さんが入ってきた。奥さんも元気になられて、また店舗探しを始めた、とのことだ。
あの時の賠償の件を恨むわけでもなく、「よろしくお願いします」と頭を下げられた。
結局、当社で手頃な物件を見つけることができず、他の業者さんで紹介された物件で契約することになったのは、何とも申し訳なかった。

で、今、私も、うちの子供たちも、皆んな、その床屋さんに通っている。
その都度、「今日はどんな髪型に?」、と聞かれないのが何より有り難い。

せめて、あの時の10万円分くらいは売上げに貢献しなければ、と思っている。
posted by poohpapa at 07:24| Comment(2) | TrackBack(0) | エピソード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最初の記事から順に、と思ったのに
最新の記事にコメントを書き散らして
申し訳ありません。
でも私、「貴方の彼女のススメ」で(嘘!勝手にでした)
こちらを見させて貰っていますので、関連に笑ってしまったのです。
貴方が大事にしている床屋さんに、彼女は
エデンの園の蛇よろしく何事かそそのかしておられる様子・・
禁断の味を知ったアダムは、はたして幸福になれるのか?
この経緯からいくと不幸になんて出来ませんね?(爆)
「いつもの」で済むのは、男には嬉しいものですが、
彼女がこの台詞を口にしてるって、ちょっと複雑?
Posted by 街のクマ at 2004年03月21日 21:20
ははは、バレバレですね。
その後、その床屋さんの従業員の方のお部屋探しは、いつもうちにお任せ頂いてるんで、いつまで経っても「借り」を返すことができないでいます。本当は、とっても感じの良いお店なんで、はっきりお店の名前も出したいのですが、そうもいかず残念です。1日1話のペースで「実話」を連載していますので、これからもご覧頂けますようお願いします。
Posted by poohpapa at 2004年03月21日 22:06
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