賃貸仲介業の日常の業務の中で、滞納賃料の督促や、立ち退き、近隣とのトラブル処理などが占める割合はけっこう大きい。そしてそれは、全く利益にはならない。そういうサービス業務が、結果的に家主さんの信頼を得ることに繋がれば、「それはそれで良し」となるのだが、ハッキリ言って感謝も一時(いっとき)のもので、長くは覚えていて頂けないのが実情である。数ヶ月部屋が空いただけで、家主さんは他の管理会社を物色し始める。あれほど、「本当に助かりました」、と言っておきながら、である。
さて、うちの管理物件で初めて問題を起こした、という入居者はまずいない。たいていは、前の物件でも何かしら問題を起こしていたり、同じ事を繰り返していたりする。事前に入居者の良し悪しが前歴によりある程度判別できれば、我々の負担もずっと軽くてすむ。
私はだいぶ前に、不動産協会の東京都本部に呼び出されたことがある。協会の年会費を滞納していて、「弁明の機会を与えるから来なさい」、と通知を受け取ったのだ。入居者の滞納には厳しく対処していながら、自分は会費を滞納していたのだ。ただし、カネが無かったから払わなかったのではない。払いたくなかったから払わなかったのである。どういうことか、と言うと・・・、
日頃、悪質な入居者の家賃滞納やトラブルで、業務の時間を割かれ相当な迷惑を被っていたので、協会の本部に電話して、「金融機関と同じく、ブラックリストを作る必要があるのでは」、と訴えたのだが、電話に出た若い女性事務局員は、「プライバシーの問題があるので作れません」、と言う。「ならば責任者と代わって」、と言うと、男性事務局員が出て、同じく、「プライバシーがあるので無理ですね」という回答。
私に言わせれば、協会は「プライバシー」で出来ないのではなく、単に仕事を増やしたくないだけであろう。プライバシーという概念が不動産屋だけに必要であって、金融機関には必要ない、なんてことは有り得ない。
「プライバシーでできない」とするなら、金融機関も不動産業も一緒である。
そもそも、不動産業者の「協会」は何のためにあるのか。業者間の親睦を計ることなんか二の次で良い。末端の会員である不動産業者の業務が事故無く円滑に進むよう支援し、協力してくれるものでなければならないハズである。職員に無駄メシを食わせるための組織ではない。彼らは公務員化していてヤル気などサラサラ無い。「こんな奴らの給料に充当されるのは納得いかない」、と思ったから年会費の支払いを止めただけである。
私は、今の店舗を借りて12年、一度も賃料を滞納したことは無い。有ったらそれこそシャレにならないが。売上が上がらず、給料を持って帰れなくても家賃だけは払ってきた。だが、協会の年会費は払わないことにした。当然、「払わなければ除名処分にしますよ」、と言ってきた。それで、本部まで噛みつきに行ってきた。
協会からの呼び出しは「勿怪の幸い」であった。ブラックリストの件を要望するついでができるからだ。他にも、是非言っておきたいことがあった。「仲介手数料」に関して、「法律の遵守を徹底すべく協会が指導力を発揮しなければならない」、ということである。この問題は、いずれ詳しく書きたいと思う。私の弁明を聞く担当者(協会役員である同業者)は、私の主張に対して一応理解を示しているような態度ではあったが、「まあ、そういうお話は支部の会合で提案して頂いて、順々に上げて頂いて・・・」、で終わってしまった。
「ダメだこりゃ!」である。ハッキリ言って、感覚が腐っている。
会員が、日常の業務で、どんな悩みや苦労を抱えているか理解すること無くして、協会が会員のために役立つことはない。公務員以下である。
どうせ無駄だとは思ったが、帰ってきて東京都本部長宛に手紙を書いた。やはり返事など来なかったが、当たり前ではある。私でも返事は出さない。私は、「貴方は本部長として無能である」、とハッキリ書いてやったのだから(爆)
社会人としての評価は、「どんなポストに就いているか」、ではなく、「どれだけ人の役にたっているか」、だろうから、私の評価としては、「碌なもんじゃない」ことになる。政治家が「大臣のポストが見えてくると政権に擦り寄るようになる」ごとく、特殊法人などの長になると、あとは何もせず何も起こさず「勲章待ち」になってしまうものだろう。ま、気持ちは分からなくもない。
で、肝心の「ブラックリスト」であるが、その後も協会主導では「できる気配」がない。やる気があれば簡単にできることであるし、たいしたソフトも手間も必要とはしない。
会員である不動産業者でトラブルを起こした客の、「名前」「生年月日」「勤務先」「トラブル内容」等を登録しておくだけでよいのである。2〜3年でひと通り「トラブル常習者」を登録できるだろう。ブラックかどうかを判断する基準(チェックシート)だけ明確にしておけば良い。あとは、それぞれの会社で入居申込みを受けたら、協会に「ブラックに該当していないか」を問い合わせるだけだ。仮に該当していても、貸す貸さないは、家主と管理会社の判断で決めればよいだけのこと。少なくとも「トラブルの危険性」が予見できるだけでも、我々の余計な業務の負担は相当に軽減される。
さて、くだんの東京都協会本部長、今も要職に納まっていて、慣例どおり最近お上から勲章をもらって喜んでいるようだが、果たして本当にその「資格」があったものなのか疑問である。私は、個人的には、「お上から勲章やらご褒美を頂いて喜ぶようになったら人間お終い(オシマイ)」、だと思っている。本人が喜ぶのは勝手だが。
世の中には他にも、「こうなったらお終い」というものがいくつかある。
「歌手や役者がバラエティー番組に出るようになったらお終い」
「旧家が有料で家の中を観光客に見せるようになったらお終い」
「政治家やその妻が選挙民に向かって土下座をするようになったらお終い」
そして・・・、
「不動産屋がコラムを書くようになったらお終い」、である(自嘲)