2004年04月23日

「三ツ星レストラン」、その真髄

不動産業もレストランも、病院もお役所も、基本的には全てサービス業だと考えている。

世界最高のレストランで、サービス業の真髄を見せて頂いたことがある。
いささか嫌味な話にはなってしまうが、ぜひお付き合い頂けたらと思う。

うちのお客様が、音大を卒業なさって、「フランス歌曲」を勉強する為にパリに行くことになった。引っ越しの立会いの時に、お客様が、「1年ほどしたら、あちこちご案内できるようになっていると思いますので、是非お越しになって下さい」、と言う。で、「そうですね、必ず伺います。その時には是非よろしくお願いします」、と言って送り出した。
東京から箱根に引っ越したワケではない。華の都「巴里」である。

まさか彼女も本当に来るとは思っていなかっただろうが、私は些細な約束でも破らない。1年半ほどして、私はパリを訪れた。
彼女も約束どおり、パリ滞在の2日間、私の専属ガイドとしてついてくれた。私は日本を発つ前に、カード会社で「三ツ星レストラン」を予約して、フランス料理のフルコースにご招待することにした。選んだのは「タイユバン」である。

ご承知の方もいらっしゃると思うが、フランス全土に10万軒を超すフランス料理店があって、ミシュランのガイドブックで、1つでも星がもらえている店は400店ほどで、三ツ星に至ってはモナコを含めても20店あまり、パリ市内では5店(当時)しかない。パリに出店している日本人のオーナーシェフも、毎年、星一つが付く付かないで大騒ぎしている。私自身は、話のタネに、くらいの軽い気持ちで行ったのだが、それが「身のほど知らず」であることを知らされるのに1分とはかからなかった。

凱旋門から歩いていけるほどの距離に「タイユバン」はある。
お店のドアを開けて「ボンジュール」と声をかけると、丁度入口近くでギャルソンと打ち合わせをしていたオーナーのブリナ氏がにこやかに寄ってきて、「ムッシュ○○○○?」、と私の名前を言う。「ウィー」と答えると、オーナー自ら私のコートを受け取ってクロークのハンガーにかけてくれた。この時点で私の負け、「えらいトコに来ちゃったな」、という後悔が始まった。

「でも、待てよ、何で僕の名前が分かったんだろう・・・。あ、そうか、日本人の予約客は今日は我々だけなんだ」、と思っていたらとんでもない。他にも3組入ってきた。それに、「コートを預けた時に引き換えカードをくれなかったけど、出てくる時はクロークの係がいるんだろうから、フランス語できないし、どうすりゃいいんだろ」、と心配で食事どころではなくなってしまった。だが、後にそれも杞憂となる。

三ツ星レストランはどこが違うかというと、味、雰囲気は言うまでもなく、サービスがズバ抜けて優れているという。たしかに、「サービスは特筆すべきもの」、と、旅行ガイドに書いてあったが、他にも驚くことはいっぱいあった。

サービスで言えば、先ず、お高くとまってはいないが格調は高く、ユーモアもあってリラックスさせてくれる。次に、料理を出すタイミングが絶妙である。そして、全ての面で目配り気配りが行き届いている。

私はテーブルナプキンを床に落としてしまい、死角になってることだし、ギャルソンが他所を見ている隙に拾おうと、さっと床に手を伸ばして拾い上げ、膝に広げた時には別のギャルソンがお盆に新しいテーブルナプキンを乗せて高々と掲げて持ってきてくれた。背中にも目が付いているようだ。一皿運んでくるたびにジョークも言う。だが、フランス語は分からない。その場の雰囲気で何とか感じ取ることはできたので笑ってごまかした。

肝心なお味も、私がもし「今までの人生で一番美味しかったものは何か」、と聞かれたら迷うことなく、タイユバンで二皿目に出された「ブルターニュ産オマール海老のブーダン」だと答える、それくらい美味しかった。まさに、「今まで美味しい美味しいと言って食べていたものは何だったの」、くらいのものである。

2時間半、ゆったりと食事をさせて頂いて、出ようとして「コート」のことを思い出した。
クロークのところに行くと、やはり専門の係に代わっていた。私がコートを頼もうとしたら、何も言わないうちに私のコートが出てきた。まるで、どこかから監視カメラで覗いていたかのように。いや、チェックしてたとしても、ああはスムーズにはいかないだろう。それができるから引換証など要らないことになる。チップも惜しくない、というものだ。

私の名前をスンナリ呼びかけてくれたオーナーといい、ギャルソンといい、クローク係といい、もちろん、シェフといい、まさにプロの仕事である。20年以上も三ツ星を維持しているのも頷ける。総てが完璧であった。

ちなみに、昭和天皇が鴨料理を召し上がった「トゥール・ダルジャン」でさえ、その後二ツ星に降格になっていることからも、星の数を維持することの大変さがよく分かる。

本当のサービスというものは、サービスを受ける側からすれば、「対価を払って、こちらが要求していることを迅速に的確にしてもらえること」、だと思うし、サービスする側からすれば、「サービスをされていると相手が感じないほど自然に要求に応えるもの」、でなければならないだろう。間違っても、「サービスはタダ」、などと思ってはならない。

で、私はY2Kが問題になった2000年の正月に、再度「タイユバン」を訪れた。
「もう一度、あの美味しい料理が食べたかったから」、ではない。
「どうせコイツは一見(いちげん)さん」、などと思われたなら癪だから、である。
もちろん、向こうはそんなこと考えもしないし覚えているワケもないが・・・。

行って良かった。すぐ隣のテーブルで食事していたのは・・・、

「リチャード・ギア」、本人であった。
posted by poohpapa at 06:00| Comment(12) | TrackBack(0) | お客さん(入居者) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
すごいなぁ、すごいなぁ。
我が家の近くに有る、恵比寿ガーデンプレイスのタイユバンロブションでさえ私は恐れ多くて入れない。

服装的にも無理か。

あははは(^^;
Posted by bubu at 2004年04月23日 11:30
bubuさん、こんにちは

凄くなんかないですよ。「三ツ星レストラン」と言っても、ランチならワインもサービス料も込みのフルコースが1万ちょっとくらいです。ただ、服装には気を遣いますね。あと、ランチですと予約は割合に楽ですが、ディナーともなると、さすがに数ヶ月前でないと予約が取れないそうです。

恵比寿ガーデンプレイスの「タイユバンロブション」は、経営者は同じですが、質はまるで違うと思います。パリの本家の客層は外交官や企業のオーナーとマダムみたいな人が多くて、日本人の客は浮いてしまっています。間違いなく、私も「場違い」な客でした。

三ツ星レストランの中でも、「タイユバン」は日本人が行くなら一番良いと思います。「日本人を受け入れること」に慣れていますもん。

正直なところ、うち(2人)は、家賃と光熱費を除けば7万円で1ヶ月生活しています。それとは別に毎月3万を旅行用に積み立てて、貯まると「超格安ツアー」に参加しています。「よくそんな安いの見つけるなあ」くらいのツアーなんですよ。コツコツ貯めて(小さく)パッと遣う繰り返しで、貯蓄はゼロです。そういう生き方です。

でも、まあ、「タイユバン」を体験したことで、どんな格式(気位)の高そうな店に入るのも怖くなくなりました。それだけは良かったかな、と・・・(爆)

コメント、有り難うございます。
Posted by poohpapa at 2004年04月23日 13:08
丸井に入るのさえためらってしまう庶民でございます。
でも、1万ちょっとでそんな夢のような体験ができるなら、
一度行ってみたいなあ。
Posted by 湯田 at 2004年04月23日 15:42
湯田さん、こんにちは

ホント、一度は体験してみると良いかも知れません(笑)
私自身、分不相応なことをするのは嫌いですが、一世一代の贅沢です。でも、1万そこそこなんです。日本のフレンチよりかえって安いし、スタッフも全然お高く留まってなどいないんですよ。

「ま、ブランド物を買い漁るよりイイかな」、と自分を納得させたりして(爆)

言い訳がましくなりますが、ふだんはロクなもの食べていません。いわゆる「貧乏舌」なんです。

コメント、有り難うございました。
Posted by poohpapa at 2004年04月23日 16:28
どんたくです。
たしかサービスの基本で客と目を合わせてはいけないという
のがあったかと。お客に見られていると思わせてはいけないんだ
そうで。
僕はもちろんフレンチなんてほとんど行った事はありません。
一人1万以上食事に使ったのは数えるほどしかありません。
Posted by どんたく at 2004年04月23日 18:13
どんたくさん、こんばんは

うちも、何かの記念日とか、そういう時にしか「高い店」には行きません。一生に1度か2度行っただけで「死ぬまで自慢し続けている」ことでしょう^^;

実は前の晩、その同じお客様と、パリの「モンパルナス・タワー40階」にあるレストランでもディナーのフルコースを食べましたが、タイユバンのランチより安く、不味かったです。1人のギャルソンが6つくらいのテーブルを担当していているので料理が出るタイミングも悪かったし。タイユバンは、1人の客に1人のギャルソンが付いてるような感じでした。逆の順で行かなくて良かった、と思いましたね。

しかも、その40階のレストランの窓際席は全部日本人でした。聞くところによると、日本人に窓際席を優先的に提供しないと怒るのだそうです。嫌ですね。

パリでも、地元の人が行く店の中には、千円くらいでワインまで付く美味しいフルコースが食べられる店もあるそうですよ。

嫌味な言い方になってしまいますが、フランス料理は飽きますね。世界の三大料理は「中華」「フレンチ」「トルコ」らしいですが、個人的には「トルコ」を外して「和食」か「イタリアン」を入れてもらいたい、などと思っています。

すみません、余計な話ばかりでm(__)m

いつもコメント、有り難うございます。
Posted by poohpapa at 2004年04月23日 19:00
poohpapaさん、初めまして。いつも貴重なお話をありがとうございます。楽しく読ませていただいております♪今回も最後の最後まで惹きつけられ、最後に\(◎o◎)/!でした。また来ます。
Posted by さくら at 2004年04月23日 22:15
さくらさん、こんばんは

コメント、有り難うございます。

お店のダイニングに入った途端に、もの凄いオーラを感じまして、「え?何なんだろう、これ!?」、って思いました。以前に名古屋駅の新幹線のホームで、下を向いて歩いていたのに、やはり凄いオーラを感じて、すーっと顔を上げたら竹下景子さんでした。10年以上前の話です。今の景子ちゃんならオーラ感じないかも^^;(失礼)

これからもどうぞよろしくお願いします。
Posted by poohpapa at 2004年04月23日 23:26
はじめましてm(_ _)mコロ助と申します。今すんでいる1Kアパートの事で相談があります(住んで3年)。先日ポストに賃貸人変更通知というものが入ってました。今までの大家さんが市外の建設会社にアパートを譲渡したとの事でした。私と今までの大家さんが交わした賃貸契約はそそまま同一の条件に継承します。という内容の手紙が建設会社から入ってたのですが、今までの大家さんは何も言ってくれないし...なんだか不安に思ってました。ところが偶然、工務店に勤めてる友達から電話がきて→友達:「もう立ち退きの話された?」私:「えっ??」友達:「聞いてないの?今度うちの工務店でそこのアパートの土地と脇の空き地に建売住宅の計画依頼されたんだよ!」私:「まじっ!!」友達:「まだいつから工事するか決まってないけど」私:「ひぇ??(>_<)」突然の事であせってます。今のアパートは築16年位でおしゃれじゃないけど、静かな場所でバス停前だし、更新手続きもないし楽ちんで気に入ってます。突然新しい大家さんにすぐ出て行けといわれるのかな?貯金もないです。新しいアパート探すのも一苦労だし(T_T)どうすれば良いのでしょうか?
Posted by コロ助 at 2004年04月27日 21:29
コロ助 さん、こんばんは

そのケースの場合は、先方の出方を見てからで充分対応できますよ。ですから心配しなくて大丈夫です。ましてや、その工務店に友人がいるなら、有り難いことに情報も入ってくるでしょう。今から慌てないことです。でないと、足元を見られます。

もし、何かの条件提示があったら、またお声を掛けてくださいね。
Posted by poohpapa at 2004年04月27日 22:18
はじめましてm(__)m
タイユヴァンについてのコメントはないかと、ネットを探していて辿りつきました。
日記を拝読して、「そうそうそうなのよ??!」と思うとともに文章の洒脱さに感心し過去のトピックも面白く読ませていただきました。
他の人にも読んでほしいな??と私の日記にリンクを貼らせていただきましたが、ご迷惑でしたら、そのようにお知らせくださいませ。
ではでは

追伸)私の日記は面白くありません。すみません。
Posted by はな at 2004年05月05日 02:03
はなさん、おはようございます

素人が言っても何の有り難味もないのでしょうが、はなさん、私なんかよりずっと文才おありです。文章が素直でヨドミないんですね。読んでてどこも引っ掛からないのです。タイユバンのサービスについても、「ああ、こういうふうに書けば良かったんだ・・・」、と思ってしまいました。
後で他の方に比較されることを思うと顔から火が出そうです(爆)
でも、リンク貼って頂いて本当に有り難うございます。

あ、プロフィールの「100の質問」も日記も読ませて頂きました(^^♪
「正直」なんですね。そのことは皆さんそうなんでしょうけど、とくにそう思いました。所詮は「人様の日記」であるはずなのに安らぎます。やはり、素直だから、だと思います。

今後ともどうぞよろしくお願いします。
Posted by poohpapa at 2004年05月05日 06:27
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