2004年06月26日

「穴」の思い出

東京の郊外にある3DKのアパートの管理をしていた。

ある夏の日、飛び込みで、大企業の取締役部長をしているお客様がカップルで来店した。たまたまそのアパートに空き部屋があったのでお客様をご案内することにした。お客様には持ち家もあり、家庭もあるが、一緒に来店した女性は奥様ではない。その女性は会社の部下で、言うなれば「駆け落ち不倫」であった。ご希望の条件からは少し外れていたが、ご案内すると一発で気に入ってくれて契約する運びとなった。

ところが、入居してすぐに退去することになる。破局したから・・・、ではない。

そのアパートにはDKにだけエアコン用のスリーブが空いていて、他の入居者たちもDKに1台だけエアコンを取り付けて暑さを凌いでいた。お客様が入居してすぐ当社に、「全部の部屋にエアコンを付けたいんだけど、どうすればいい?」と電話してきたので、「元々のスリーブは1ヶ所ですから、他の部屋には新たに穴を開けなければならないでしょう。家主さんにはこちらから連絡しておきますので、どの位置に穴を開けたら良いか家主さんと電器屋さんとで打ち合わせをしてください」、と言って電話を切った。

それからすぐ家主に連絡すると、「とんでもない、エアコンなら1台取り付けてあるでしょう。僕のアパートに穴を開けないでくれよ」、と言う。家主は人柄は悪くないが、とても神経質で、「アパートに穴を開ける=傷モノになる」、と思ってしまっている。そこで、「ふつうの人」である奥様と電話を代わってもらった。私が、「入居者が、エアコンを付ける為に家主さんに無断で壁に穴を開けたとしたら問題ですが、『エアコンを取り付けたいから壁に穴を開けさせて欲しい』と言ってきたのを拒むことは常識的に考えればできないと思います。奥様からご主人様を説得して頂けませんか」、と頼むと快く受けてくれた。電話口でしばらくやり取りしていたようで、ご主人が再び電話に出て、「じゃあ、イイことにするよ。だけど、どうしても穴を開けたいのかなあ・・・」と、まだ言っていた。

私は嫌な予感がしたのでご主人に釘を刺しておいた。「ご主人様も一度了解なさったことですから、これから○○さんと顔を合わせても、絶対にエアコンの穴の話はしないでくださいね。今度その話をする時は、電器屋さんを交えての打ち合わせの時ですからね、いいですね」、と。「うん、分かったよ」、と言ってはいたが、それでも不安だった。

翌日、その不安は的中する。お客様からクレームの電話が入った。「話が違うじゃない!、さっき駐車場で顔を合わせたら、『どうしても穴を開けるの?』って聞いてきたけど、どうなってんの!?」、と。お客様のご立腹はもっともである。

私はすぐに家主に電話して猛抗議をした。家主は平謝りだったが、もう遅かった。入居者が退去を決意してしまったのだ。お客様の入居期間はたったの2週間であった。

そのお客様は私にとっては誠に有り難いお客様であった。退去を決めるとすぐにまた来店して、「もう一度最初から部屋探しをし直してくれないか。もちろん、手数料もちゃんと払うから」、と言ってくれたのである。そう言われても、「ああ、そうですか」ともらう訳にはいかない。下手をすれば「損害賠償モノ」だったのだから。

改めて国立にある3LDKのマンションを紹介して契約してもらうことになったが、手数料の15万円は辞退した。「気にしないで受け取って」、と再度仰ってくださったが、もらえるものではない。このトラブルは私の所為ではないとは思うが、ご迷惑も掛けているし、自分でも納得がいく仕事ができていない以上、頂く訳にはいかない。私も「プロ」だから。同様の理由で、私は年に何回かは手数料を辞退することがある。

この家主とはトラブルの続きがある。それはまた明日。

posted by poohpapa at 06:01| Comment(2) | TrackBack(0) | 家主さん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
poohpapa様こんばんは
件の「穴をあける仕事」ダイヤモンド・コア業を
私17年もやってきました。
人には言えないあんな事やこんな事、一杯しましたよ
電気屋さんと相談して
「じゃ、ここなら開けても大丈夫ですね?」
と施工すると電線を切ったり、太い梁用の鉄筋を切断したり・・(冷汗)
さる高層ビルの地下で大きな地中梁の鉄筋を切りまくった時は
(トホホ・・)という気持ちになりました・・・
ストレスも溜まりまくりました・・・
だから、家主さんが心配する気持ちも
時によっては「よ??く判る」のでした(爆)
Posted by 街のクマ at 2004年06月26日 22:01
街のクマさん、こんばんは

毎日コラムを出していますが、どこでどんな繫がりがあるか分からないものですね。クマさんが、昼も夜も「穴開け」に勤しんでいたとは(*^^)v

基本的に家主さんはアパートの設計図を所有していますので、図面を見ればまず間違いないのでして、まあ、間違いがあるかないかはともかく、「エアコンをつけたい」という願いを却下することは出来ないと思います。家主さんの気持ち、私、分かりません(爆)

たとえば、8万の部屋が半年空けば50万近い損失です。結果論ですが、「穴」の修理代に掛けたほうが安いです。まあ、その家主さんの場合は、私に、「入居者がどんなふうに使っているか留守中に部屋ん中を見たらダメかなあ」とも言ってて、止めるの大変でした。困ったモンです。今はだいぶ変わっていますけどね。

コメント、有難うございます。
Posted by poohpapa at 2004年06月26日 22:38
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