「まだいいですか?」と訊かれれば「ダメです」とは言えない。
見かけはごく普通の30代半ばの男性だが、一見して「この客とは生理的に合わないな」と直感した。なにか嫌な雰囲気が漂っている。
「駅から歩けて、2DKで、駐車場込みで7万5千円以内で探しているんですけど」とのこと。駐車場を除けば部屋に掛けられる予算は6万5千円ということになる。条件的にはかなり厳しい。おそらくは、駅前から順番に不動産屋を当たっていて、物件が無くて、うちに辿り着いたのが「その時間」、ということなんだろう。
当社の管理物件には無いんで、仲良くしている同業者に電話してみると、そこそこ良い物件を紹介してくれたのだが、その物件は一般媒介で、他の業者でも取り扱っている。
「資料が欲しい」とのことでコピーを渡し、顧客カードに記入してもらおうとすると・・・、
「私は、そういうのは書かないことにしているんです。申し込みする気になったら、その時に書きますから」、と言う。
「この物件は、いろんな業者さんが扱っていますので、もし見て頂くとしたら、直前に有無を確認してご連絡します。でないと無駄足にさせてしまう可能性も有りますので、その為の連絡先をお伺いすることは出来ませんか?」、と訊くと、
「無くなったら無くなったで構いませんから」と言う。
私の一番嫌いな言葉である。自分のことしか考えていない。「オマエは良くても、私は良くないんだよ」、と言いたくなる。人に依頼事をしていながら自分の情報は出そうとしない。不動産屋が信用できないなら依頼もしなければよい。こういう輩はたまにいるが不愉快だ。
お正月のイタリア旅行でも、こんなことがあった。
一つのテーブルに6人が着き、食事をしながら話は弾んでいたのだが、お仲間のHさんが、父娘(父親は既に定年退職していて、娘さんは20代後半)で参加している父親に、「お仕事は何を?」と訊くと、「いえ、それはちょっと・・・」、と答えない。
私には、世の中に「人に訊かれて答えられない職業」が幾つもある、とは思えない。話の中で、Hさんは自分の仕事のことを既に話している。大雑把に「製造業です」でも「公務員です」でもいいではないか。いっぺんに座がシラケたのは言うまでもない。
私が言うのもナンだが、今は、資料が欲しければネットで幾つでもタダで見ることが出来る時代なのだから、「自分の素性は何一つ明かしたくない」なら不動産屋に資料を貰いになど来なければよい。
と言うか、うちには二度と来なくていい


