かなり前のエピソードで、何年か温めていた話だが・・・、
「費用のことは心配せず、坂口さんがやりやすいようにやって頂いてかまいませんよ」
当社で管理させて頂いているアパートの家主さん(ご主人様)のお言葉である。長くこの仕事をしていて聞いた「私が最も感銘した言葉」である。
もうとっくに寿命になってる什器備品を「何とか修理でもたせよう」とする家主さんは多い。それだけに、おカネが掛かる相談の際には、私も言葉を選びながら慎重に話したりするものだが、そう仰って頂いて、涙が出るくらい嬉しかった。いや、本当に涙が出た。そういうのは家主さんが裕福かどうかとは関係ない。
実際に、入居者には何の責任も無く、寿命がきた給湯器の交換費用を「あの人はこのアパートが建った時から入居しているから半分出してもらってくれ」と私に言い、入居者には「不動産屋に任せているから」と、私を悪者にしていた家主がいた。どう説明しても納得しなかったので私のほうから管理を下りた。
その良き理解者である家主さんがお亡くなりになった。
かなり前から入退院を繰り返していらっしゃった、とのことだが、私は全く気が付かなかった。ご夫妻して、私に気を遣わせまいと、ひた隠しにしていらっしゃったのだ。亡くなられたと知ったのも2日後のことだった。それも、給湯器の交換の打ち合わせで電話していて、たまたま病院からキャッチホンが入ったことで私に知れてしまったのである。危うく大変な不義理をしてしまうところだった。
そこでも奥様は私に「遠いから、葬儀にもおみえ頂かなくてけっこうですよ」と仰ってくださったが、そういうワケにはいかない。ご夫婦して、ふだんから不動産屋の仕事に理解を示して頂いて私も何度も助けられている。ここで不義理したら一生後悔することになる。固く辞退なさる奥様にお願いして、直ぐに花輪の手配をして頂き、どうにかお通夜に間に合って、ホッとした。
思えば、コイツやこの青年も入っていたアパートの家主さんでもある。近所に美味しい蕎麦屋さんが出来たから、とお連れ頂いたこともある。奥多摩の清流のせせらぎを聴きながらの蕎麦は美味しかった。
近くで行われていても出たくない葬儀もある。どんなに遠くても参列させて頂きたい葬儀もある。
私は、「生きている時に嫌いだった人を、死んだからといって好きにはなれない」し、「いい人だった」などと言うことも出来ない。その家主さんは本当に最高のお人柄だった。
私は、良き家主さん、良き理解者を一人失ってしまった・・・。ではあるが奥様も娘さんもご主人様と同じ人柄。なので、( ↑ )真冬に入居者募集中の部屋の給湯器が(案内をしてくれた業者がうっかり電気のブレーカーを落としてしまい)破裂した際には私が弁償させて頂いた。もちろん奥様は辞退なさったけど。
正直、この家主さんの為ならお役に立ちたい、と思える家主さんもいれば、「カネをもらっても嫌だ」と思える家主もいる。当社(私)だけの話でなく、そういうことで得していたり損をしている家主は多いと思う。
2023年02月12日
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