2007年06月01日

普通では有り得ない展開になった部屋探し(後編)

実は、私は「会ってみて変な人なら部屋探しを断ろう」と思っていて、それを判断する為には来店してもらうより現地と併せて視ておく必要があると考え、私のほうから出向かせてもらうことにしたのだが、会って直ぐに、「ああ、この人たち(姉妹)なら大丈夫」と思えた。

依頼人の希望条件を聞いていくうち、私の中では「C市にある、あの物件しかないな」と思えたので、「実は、現在、賃料10万で募集している2LDKのアパートがあります。そこは今まで11万8千円で貸していましたが、家主さんが今回から10万に値下げしています。それを9万にならないか交渉してみます。OKして頂けるかどうかは分かりません。帰ってから家主さんに電話して、こちらから結果をお知らせしますね」、と伝えてお店に戻り、家主さんに電話すると・・・、

ご主人はご不在で奥様が電話に出られたので、Aさんの状況と今までの経緯、当社の直のお客さんであること、など詳しく内容をお伝えしてご返事を待つことにし、夕方、ご主人からお電話を頂いた。

「家内からあらまし聞いたんだけどね、その人、○○さんは直接会ってるんだよね。なら、受けちゃってください。人助けしましょうよ」

そうは仰って頂いたが、物件は場所も環境も良く、設備も「和室6、洋室6、LDK10、浴室全自動、ウォシュレット、テレビドアホン、エアコン2台、収納2間、南向き、バルコニー4間幅、上下一世帯だけ、高床で軽量鉄骨、各戸に専用物置付き」という内容である。私が依頼したことではあるが普通なら断られてしまう。

ちょうど、その日の朝、他社から「今日ご案内をしたい」との電話が2件入っていて、放っておいてもその日に10万の賃料で決まりそうな気配だったので、私は家主さんにそのこともお話した。隠してAさんの話を進めたのでは家主さんの正当な利益を損なうことになるし、フェアではない。だいいち、私にそんな権限は無い。

Aさんにも「私は他社からも引き合いが来ていることを家主さんにお伝えしています。後は家主さんがどう判断なさるかです」と伝えた。
今までの流れから予測すればまず受けてくださるものと思われたが、内容もイマイチで毎月1万も違ってくるなら、私でもお断りする。


家主さんは、Aさんの内容を聞いて、こう判断なさった。

○高齢、ということなら無責任なことはしないものだろう。
○もう引っ越すことは考えないだろうから長く入居してもらえる。
○短期で出られるより、コスト面で考えてもそのほうが得である。
○管理業者が本人と会って大丈夫と判断できたなら信用して良い。
○どうせ家賃収入の半分は税金として収めるのだから、1万の値下げは実質的に5千円の値下げと同じ(この家主さんの場合は)

年寄りだから、無職だから、年金暮らしだから「遠慮したい」などとは一切仰らなかった。家主さんは「アパート経営もビジネス」だということを私以上に理解していらっしゃる。私は、それを知っていたのだ。


以前、某住宅メーカーから紹介された別の家主さんで同じようなことがあった。新築物件の管理を任されることになって、たまたま来店したお客さんが気に入ってくれたが、小料理屋を営む母娘だったので、恐る恐る家主さんにお伺いを立てると、「○○さんが会って、この人なら大丈夫と思ったんでしょう?、ならそれでいいじゃないですか。あなたの目を信じてますからかまいませんよ」と仰って頂いて、嬉しくて涙が出た。「この家主さんは裏切れない」と思った。

けっきょく、そのほうが何かと得で賢明なのだが、多くの家主さんは「不安が先に立って不動産屋を信じ切ることが出来ない」ものだ。自分で判断するより不動産屋に任せたほうが責任も転嫁できるし楽である。中には自分で判断しておきながら不動産屋の所為にする家主さんもいて腹も立つが、それはそれで仕方ないこと、と思っている。


数日して、Aさんは家主さんのお宅にご挨拶に伺ったようで、家主さんの奥様から「人柄の良い方で安心しました」とのお礼のお電話を頂き、Aさんからも「今日、家主さんにご挨拶させて頂きました」とのご報告を受けた。これで一安心、である。

そこに至るまで、朝といわず夜といわず定休日といわず、携帯に20回以上「細かな相談事」で電話をもらっていて、中には初歩的な「訊くまでも無い質問」もあって、傍で聞いていたうちのが「私なら投げちゃうね」と笑っていたが、私はそういうことでは怒らない。商売なんだし、自分で「何かあったらご遠慮なく」と言っているのだから。


それにしても、「ご縁」、というのは実に面白いものだわーい(嬉しい顔)
posted by poohpapa at 04:45| Comment(8) | エピソード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。いつも楽しく拝見させていただいています。
高齢者であることのリスクは、突然死や寝たきりなどもあると思います。うちも業者ですが、うちだったら断っていた案件なので、ちょっとびっくりしました。(他の条件はともかく賃料の値下げが…。)
2LDKだとあまり物がないので出入りは少ないのですが、都内だと短期で出る新婚さんとかが多いんですか?
Posted by のらくろ at 2007年06月01日 10:09
感銘を受けました。("感動"と言うに相応しいのですが、あの単純一郎が貴乃花に使って以来、安っぽくなった気がするものですから)。
今も半田にお住まいでしたら、名古屋からご挨拶に伺って、一献差し上げたいのですが、花の東京とあっては、それもままならずーー。
それにしても、想像ですが、類稀なる、入力スピードに敬意を表します。
Posted by kurama at 2007年06月01日 10:32
のらくろさん、こんばんは、初めまして

今日はバタバタしてまして、返信が遅くなってすみません。

こういうケースは極めて稀なんだと思います。家主さんは「ハートが有って欲が無い」人なので成立した話、ですね。家賃の値下げ交渉は不動産屋にとっては非常に気を遣うものであって、そういう話を忌憚なくさせて頂ける、ということは本当に有り難いことだと感謝しています。

格好つけるワケではありませんが、内容が良くて予算の有るお客さんの部屋探しをして成約になっても記憶には残りませんね。厳しい条件の中で、いかに良い物件を探すか、というのが不動産屋の仕事、だと考えているのですよ、本当に。

東京の多摩地区では、国立の人気に翳りが見えて、今は立川が一番人気のようですね。良い2DKが慢性的に不足しています。新婚さんは・・・、以前より減ってるように感じます。統計を取っているワケではありませんが、なんかそんな気がします。

コメント有り難うございます。お互い、頑張りましょうね。
Posted by poohpapa at 2007年06月01日 22:16
kuramaさん、こんばんは

この家主さん、大企業の取締役をなさっていたエリートですが、それでいて子供のような「悪戯ごころ」も持ち合わせていて、そういうノリででもあったのかも知れません。

ところで、私の入力スピードは、一本指にしては速いほう、くらいの話ですね。死ぬまで「ブラインドタッチ(タッチタイピング)」は無理でしょうから、左右の人差し指だけが頼りです。

あ、奢り、ということでしたら何処までも出かけていきますですよ(爆)

コメント、有り難うございます。
Posted by poohpapa at 2007年06月01日 22:25
poohpapaさん、こんばんはーo(*^▽^*)o~♪
なんとも素晴らしい結末ですね!
ここのところ、暗い話題が多いので、こういうステキなお話を目にすると、とても嬉しくなってしまいます!
家主さんのご性格や考えをきちんと理解されていてお互いの信頼関係が築かれていること、そして、借主さんがどのような方なのか、洞察力がないとこういったステキな引き合わせが出来ないですよね。
とてもいいお話を、ありがとうございました!
Posted by カミュ at 2007年06月01日 22:36
こんばんは。
いやいや^^やってくれますねぇ^^

久しぶりにスカッしました^^すべてが上手く行き過ぎている感じがする!!まさにシナリオ通りの様です。こんな事ってあるんですね!

日頃からの心構えがこの様な結果を生むのでしょうね。ボクも日々勉強中ですが、一生勉強できるやりがいのある仕事かも!ってホント思いました。

ありがとうございます(>ε<)
Posted by えびす けんたろう at 2007年06月01日 23:42
カミュさん、おはようございます

後で、若干の後日談(実質的には前日談)を書かせて頂きますが、全てが上手く廻ったケースですね。10年に一回あるかないか、のケースだと思います。

今、私の独立(?)問題でゴタゴタしてますが、先日この家主さんから「何かあったら連絡くださいよ」とお電話を頂きました。おカネの支援より、そういう心の支援のほうが嬉しいですね。

もちろん、おカネの支援も有り難いのですが^_^;

ところで、カミュさんのHN、ブランデーからとっているのでしょうか?
ちと気になっています。

コメント、有り難うございます。
Posted by poohpapa at 2007年06月02日 05:53
えびす けんたろうさん、おはようございます

これね、Aさんが「たまたま朝日新聞の記事を読んで」「本を購入して読んで」「出版社に問い合わせて」「手紙を出して私に転送されてきて」「私が会ってみよう、と思って」「ちょうど良い物件が空いていて」「その家主さんがアパート経営が何たるか、をよくご存知でお人柄も良くて」「値段交渉に応じてもらえて」、とトントン拍子に進んだもので、世の中には「全く逆のケース」もあります。

全て裏目裏目に出てしまって悪循環から脱せない、なんてことが。

そうすると、残るのは不快感と不信感だけ、です。どんなにその人のために努力しても、恨まれるだけ、なんてこともよくあります。辛いですが、ま、それが人生なんでしょうね。

ロッカールームでゴミ箱を蹴飛ばす野球選手の気持ち、解かります。

いつもコメント、有り難うございます。
Posted by poohpapa at 2007年06月02日 06:08
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