一昨日、20年以上のお付き合いの家主さんからFAXが届いた。
「管理会社を変更するので今後は一切斡旋をして頂かなくて結構です」という強い調子の文面であった。つまりは、ちっとも客付けしてくれない私への不信感である。家主さんは、私がお客さんを紹介してくれない、と思っているようだが誤解である。だが、そんなことは弁解しても始まらないこと。
今の時代、空いてしまったら半年一年次の入居者が決まらないことはザラにある。家主さんが裕福かどうか、気持ちに余裕があるかどうかに関係なく、2ヶ月でもやんや言ってくる家主さんもいれば「大丈夫ですよ、気にしないでください」と声を掛けてくださる家主さんもいる。こっちは離れた場所にいるが、家主さんは毎日傍にいて空室を見ているから本音では管理会社より何倍も辛いことだろう。
部屋が決まらない理由は大雑把に言えば「新築物件が増えすぎている」こと。そして個別には立地や構造の問題、そして一番大きな理由が築年数。最近のお客様は「先ず築年数から入る」人が多いから、築20年を超えているとそれだけで選択肢から外される。どう設備を替えても築年数だけは変えられない。
腹を割って率直に相談できる家主さんもいらっしゃれば、少しでもカネが掛かる話はし辛い家主さんもいる。性格の問題だけではなく、こちらも相手の事情が分かっているから、である。
そこに、もう一つの問題がある。AD、である。半年一年も空いてしまうことを考えたらADの1ヶ月、2ヶ月を付けたほうが他の業者さんも張り切って客付けしようとしてくれるだろうから当然に早く決まるものだろうけど、私の主義だからADの話は切り出さない。中には、業界の事情をよくご存知で「ADを付けましょうか?」と家主さんのほうから仰って頂くこともあるが、ちゃんと説明をして納得して頂いている。客付業者に対してだけでなく私のほうにも広告料としてくださる話も出たが当然に辞退。
相手のあることだし家主さんも辛いことだろうけど「そうですね、では、ADを付けましょうか」とは言えない。それをやってしまったら、それこそ筋を違えることになる。だが、家主さんの立場に立って考えればADを付けて早く決まったほうが良くて、それなら、そういう提案もしてくれる他の業者に替えよう、と考えても不思議はない。自分の主義を貫くことで不本意ながら家主さんに迷惑を掛けているんだろう。
家主さんに私と心中してもらうワケにもいかない。もちろん、当社を切ってくるのにはADだけが理由ということではないのは解かっている。こちらの立場から言えば、20年以上付き合っていても意思の疎通が図りにくい家主さんもいれば半年一年の付き合いでも何でも言える家主さんもいる。
で、今回の家主さんの件に関しても、早く決められない私がいけない、それだけのことで、どこに頼むか、は家主さんが決めることだから何の異議も無い。「たられば」の話になるが、もしもADを付けていれば半年も空くこともなく2ヶ月くらいで決まったかも知れない。そうすれば実質的に「3ヶ月の空き」になっていたかも知れない。自分の主義に拘ることで家主さんに損害を与えている、と言えなくもない。
その物件の入居者さんとの関係も心残り。信頼関係が築けていて親しくしているから、そういう結果になって申し訳なく思う。いちおう「何かあったら何でも相談に乗りますから」と伝えておいた。
もしADを付けていたら、という発想とは逆に、もしADなんてものが無かったなら、違う結果になっていたかも知れない、とも思う。
昨日、同業者さんから問い合わせが入った。もうその時点では切られているから物件の有無を答える立場にはない。だが、せっかく問い合わせをしてくれた業者さんに冷たく当たるワケにもいかないので、「たぶんまだ有ると思います。近々他の業者さんから改めて広告が出るでしょうからそれまでお待ちください」と伝えた。「一切の斡旋をしなくていい」と決別宣言をされているが物件には思い出も愛着もある。
ま、私は遠くない将来、AD問題と心中していることだろう。それが廃絶できたなら、この業界で生きてきた足跡を残せたことになるかな、と思っている。