不動産の広告媒体である at home 社の機関紙「TIME」に、気になった記事があった。
ある判例を紹介していて、それは退去時の敷金清算に関する裁判の判決に関するもの。
「特約があったとしても、それが通常の損耗にとどまる限りは、クリーニング特約に基づく費用を賃借人の負担とすることはできないとされた事例」、という内容。
ほとんどの業者が東京都の賃貸住宅紛争防止条例に従っていて、「敷金は原則お返しするもの」というスタンスだが、退去時に専門のクリーニング業者を入れて、その費用を入居者の敷金から差し引いて残りを返す、ということは認められている。入居者のほうも、荷物を積み込んだトラックが出て行っているのに部屋に残って掃除をするなんてことはしたくないものだし、貸主と借主の利害が一致していて極めて妥当な話だと思う。当社は契約時に「退去時は一切の掃除をしないでください」とお願いしている。
と言うのも、素人が掃除しても、そのまま次の入居者に貸す、なんてことは出来ない相談。どのみちプロにやり直してもらうことになるから不合理。以前は「自分の知り合いの業者に依頼させてくれ」と言われて任せたらヒドイ仕上がりで、結局当方の指定業者で改めてクリーニングすることになった。入居者からしてみれば「少しでも浮かそう」ということだったんだろうけどダブルで支払うことになった。
中には、貸した時よりキレイな引っ越し、というのもあった。ただし、28年間の賃貸不動産管理歴の中で2件のみ。つまり、10年に1件もないということ。いずれのケースも、貸した時よりキレイなくらいだったのだが、家主が「敷金からクリーニング代を引いてくれ。壁紙も畳も襖も入居者に請求してくれ」と言って聞かず、説得しようにも応じなかったので当社は管理を降りている。
冒頭の訴訟、入居者は敷金の全額返還と慰謝料も請求していて、慰謝料に関しては「理由が無い」ということで却下されているが、「クリーニング費用に関しては特約があっても通常の損耗であるなら差し引くべきではない」という判決。入居者は7ヶ月しか入っていなかったようだが、期間が短いからこそ逆に借主負担でいいように思う。それより、入居者がなんでこんな裁判を起こしたのかが解からない。弁護士も付けているだろうから、戻ってくることになる21000円より訴訟費用のほうが大きいだろうし。
東京都の賃貸住宅紛争防止条例では、但し書きで「予め、貸主と借主の合意があれば、その合意内容に従ってもらってかまわない」となっていて、東京地裁の判決は都条例を無視している。まあ、「予めの合意があれば(借主にとって不利な特約でも)それに従って良い」なんてことで良いワケないけど。
東京地裁はたまにおかしな判決を出すようで、我々管理会社は契約時の説明をしっかりしておかないと後々困ることになるだろう。今回のケースでは家主が自分で掃除していたとのことで、もし業者に依頼していたなら判決も違っていたかも、と思う。アパート経営は傍から見るよりたいへんで、「何もしないで黙っていても箱だけ作っておけばカネが入ってくる」というものではない。投資額も半端ではないし、一部屋退去したなら数十万のリフォーム代が掛かるし、定期的に(およそ10年ごとに)外装のリフォームもしなければならない。にも拘らず、裁判所は「家主 = 資産家」「借主 = 弱者」と決めつけている。
我々不動産会社(管理会社)は貸主借主の双方の利益を護るべく公平な判断をしなければならないもので、実はそれがとても難しい。言葉を選んで慎重に話しても伝わらないこと、理解して頂けないこともある。カネが絡めば尚更である。引越しの立ち会いと精算は手数料を頂きたい、と本音では思っている。
>弁護士も付けているだろうから、戻ってくることになる21000円より訴訟費用のほうが大きいだろうし。
プロ市民の崇高な嫌がらせに払う対価は、金額の多寡ではありません。
弁護士もその一部でしょう。
7ヶ月間の入居中に何かよほど嫌なことがあったんでしょうか・・・。そうでなければ訴訟なんか起こさないと思うのですが・・・。どう考えても「銭カネの問題じゃない」ですもんね。
それと、マトモな弁護士なら、訴訟を起こすことで得られる利益と不利益、予想される判決をクライアントにしっかり伝えるハズですもんね。勝ち負けに関係なく訴えを起こさせる・・・、誠実ではありませんよね。今回のケースでは勝っても元は取れないと判っていたと思いますし。
弁護士もピンキリですね。
崇高な(とプロ市民たちが思っている)“嫌がらせ”ですから。
一度どこかで頭のおかしな裁判官が勝たせると、雪崩を打って同様の訴訟を起こそうっていう「風が吹けば桶屋が儲かる」的な頭の変な奴が扇動されて善意で行うテロです。
ほとんど暴力団の三下「鉄砲玉」と同じ思考回路ですね。損得は関係なく資産家を苦しめる、社会に抗って存在を示す、というのが目的なのか・・・。こんな奴らに入られたら家主さんは堪ったモンじゃありません。7ヶ月という短い入居期間、というのも生活のために部屋を借りたのでなく別の目的だったかも。入ってきた理由、出ていく理由は何だったんでしょうね。
うちも、前のアパートを出る理由、というのは訊くようにしています。本当のことを言わないにしても、嘘を言われたなら何かの時にこちらには有利な証拠になるでしょうから。
善意のテロ・・・、無い無い、悪意ですって (^◇^)
昨今の建物賃貸契約では、原状回復費の考え方が大きく変化していて
「通常損耗に対する費用は、賃料の中から回収していかなければならない」
ということが大前提になっています。
国交省の指針や東京都の条例は、この大前提を明文化しただけに過ぎません。
ハウスクリーニングも例外ではなく、通常の生活をしている上での汚損は、原状回復費用として請求ができなくなっています。
ところが、不動産業界は、この部分を何とか借主負担にできないかと知恵を絞り出します。
東京ルール(東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例施行規則)の中の
「当事者間の特約のある場合を除き〜」
という部分を悪用して、独自解釈を生み出しました。
特約条項で、ハウスクリーニング費用を借主負担と定めれば、その部分は東京ルールに従わなくて済むと。
この方法を使っていけば、あらゆるものを借主負担にできそうですが、そうは問屋がおろしません。
一般的な建物賃貸借契約では、貸主=事業者、借主=消費者(法人の場合は別)になりますので、消費者契約法に縛られます。
「消費者は、法律のことも契約のこともわからないド素人なので、事業者に食い物にされないように保護しなければならない」
消費者を極度に甘やかしている消費者契約法のような気がしますが、消費者契約法第10条によると、消費者に一方的に不利な契約条項は、合意の有無にかかわらず無効となってしまいます。
ここで気をつけなければならないことは、「何」と比較して有利か不利かということです。
比較の対象がなければ、有利も不利もわかりません。
建物賃貸借契約においては、この比較の基準となる契約は「標準的」な建物賃貸借契約です。
標準と比較して、有利か不利かという判断になります。
個人の主観が入る余地はほとんどありません。
そこから考えると、標準的な契約では、通常の生活をしていく中での汚損は原状回復費を請求できませんから、ハウスクリーニング特約は、消費者側に一方的に不利な条項と言えます。
退去時の清掃免除程度のことで帳尻を合わせるのは難しいです。
数千円の負担だけということであれば、また違ってくるとは思いますが。
ハウスクリーニング特約は、おそらく数年以内に否定されることになるでしょうけれども、逆の見方をすればそこまでは利用できるとも言えますね。
私は、特に信念を持ち合わせていないので、ハウスクリーニング特約が高裁レベルで否定されるまではしっかりと利用したいと思います 苦笑
返信、少々お待ちください。順番が前後しますが、それもどうぞご了承ください。
昨日、ある家主さんのお宅に伺って「この敷金の話」をしましたら、ご存知でした。私は、今まで通り、掃除はしないでルームクリーニング代を敷金の中から負担する、というのは合理的だと思うのですが・・・、その反面、敷金は何も無ければ全額お返しする、ということだとスッキリはしますけど。
う〜ん、私は「ハウスクリーニング特約は消費者側に一方的に不利な条項とは必ずしも言えない」と思うのですが・・・。少なくとも、利点は有りますから「一方的に不利」とは言えないでしょう。そこで人間性の差も出てきたりして・・・、つまり、「何年も住ませて頂いたのだからちゃんとお掃除して・・・」と考える人もいれば、「そんなの知らないよ、家賃の中に入ってんでしょ!?」という人もいて・・・。私なんかの性格だと「何かで差を付けたい」と思ってしまいますね。
ただ、「入居者の責任による汚れ、傷み、の基準」が曖昧で、むしろ、その部分を明確にしてもらいたいものですが、それは感じ方の違いがあるから無理ですもんね。綺麗にお使い頂いた人も、汚し放題でギリギリで入居者負担を免れるくらいの傷め方をした人も、同じように敷金を全額返す、というのは平等ではあっても不公平と言えますね。どこかで線引きしなければなりませんが、家主さんは納得できないことでしょう。もちろん、管理会社も、ですね。
それと、入居者がクリーニング代を負担しないのなら、今の家賃を見直す必要も出てきます。それらは当然に家賃に含まれるもの、ということを後になって言われたら、そういう前提でなく家賃設定しているなら値上げをしたとしてもおかしくありません。まあ2千円くらいは上げないと採算的には合わないですね。今までは「家賃据置き」とか「若干値下げ」が多かったのですが、今後の更新では値上げに転じそうにも思います。
契約時に「どう約定していたか」によるでしょうから、今の入居者がクリーニング代を出すことに納得しているなら値上げはしないで済みますが・・・、そもそも家賃設定はアバウトであるし・・・。
明確な基準があったほうがいいのかアバウトな部分を残したほうがいいのか、迷うところです。礼金0敷金0での募集にも影響が出そうですね。ゼロゼロでの募集形態は残すにしても、原状回復費用が請求できなくなるなら家賃は高めの設定になることでしょう。
妙な裏技や駆け引き抜きでスッキリさせたほうがいいのかなあ・・・、多少の不合理はどんな商売にも起こり得ることだから、そういうのは飲み込むしかないんでしょうか・・・。アパート経営なんて割に合わないものですね。今もどんどん建てられていますが、さて、この先どうなることやら・・・。
それにしても、いつもながら丁寧な解説とご指摘、有り難うございます。