2008年03月07日

真意が測れなかった老人の部屋探し

去年の初夏の頃、70歳くらいの男性客が来店して部屋探しを依頼された。居酒屋をやっていたが、奥さんを2年前に病気で亡くし、その後、40代の女性をママに雇って営業を続けていたものの、半年前その女性も癌で亡くなってしまい、ついには店を閉めてしまった。

たまたま、借りていた店舗兼住居が老朽化していたことから家主から立ち退きを要求され、仕事をする気力も失せ、身寄りも無いことから市に生活保護の申請をして部屋探しをすることになったとか。

家賃は福祉で出るとのことで、支払い面では問題ないのだが・・・、
商談を進める上で一つだけ困難な点があった。

固定電話も携帯電話も無いので、こちらから連絡を取れない、ということである。そりゃあ、自分が外に出ている時に家に電話したところで誰か出てくれるワケもなく、他から掛かってくる当てもない。今は商売もしてないし、無くても困らないから電話は処分していた。

仕方ないので未使用の50度数のテレカをあげて「うちに電話する時はコレをお使いください。他の不動産屋と連絡するのに使っても構いませんよ」と言うと喜んでいたのだが、なぜか姿を見せなくなった。

ま、どこかの業者で部屋を見つけたんだろう、と思っていたら、先月になって「その後、何かイイ物件は出た?」と訪ねてきた。なんと、まだ部屋探しをしているんだと言う。

「いやあ、あちこちの不動産屋さんに当たったけど、なかなか無くてねえ。やっぱりオタクが一番親切でいいよ。だから何とか探してよ」と調子のいいことを言う。半年も音沙汰なしだったくせに、である。

で、またゼロからの部屋探しが始まったのだが、生活保護の人が借りられる部屋、というのは制約がある。立川市の場合は、一人世帯だと家賃が53700円までであって、オーバーすると補助されない。

懇意にさせて頂いている業者さんに事情を話して家賃交渉したりして、これなら最高、と思える物件を案内したが、「広すぎて勿体ないからダメ」と言い、ならばと1Kのマンションを案内すると、最初は「おお、こんなんでイイんだよ」と言っていたのだが、「あれ、この部屋は風呂とトイレが一緒かえ?これは嫌なんだよ」と断る。

案内前に間取り図を渡して説明した際には何も言わなかったのに、である。狭い一方通行の道を迂回しないと辿り着けない物件だったので片道30分かけて徒歩で行ったのに、「なんだ、ガッカリだなあ」と言う。それは私のセリフである。

向こうは現地まで自転車で来ていたから先に帰したのだが、老人は別れ際、こんなことを言った。

「社長にこれ以上迷惑かけちゃナンだから、他も当たってみるよ」

「オタクで決めるから、最後まで面倒見てよ」と言うなら解かるが、それはないだろう。もっとも、そんなふうに「さも相手を思い遣っているかのように装って」責任転嫁して逃げる人は結構いるものだが。

そうかと思えば、半年前に渡したテレカを未使用のまま「使う機会が無いから社長に返しとくよ」、と返したりもする・・・。

私には、老人が「本当はどうしたいのか」真意が解からなかった。


最初は、家主に対する「けっこう探してんだけどね」というポーズのために利用されているだけかも、と思っていたが、家主は「出すものは出すから心配しないでいい」とも言っているとのことで、そうなると立ち退き料の高騰を狙っているワケでもなさそうだし・・・、


夕方、銀行に行った帰りに回り道をして、今住んでいる家を見に行ってみると、驚くほどに荒れていた。雨戸は無くて窓ガラスは割れ、板壁は何枚も剥がれて中の土壁が雨曝しの状態。直ぐにも倒壊しそうな建物で、悠長なことなど言っている暇は無さそうに思えた。

直ぐ隣に、やはり私とは仲の良い不動産業者がある。その老人は「近すぎて、そこの社長は私のこと何もかも知っているから行きにくいんで、他の不動産屋さんで探したいんだよ」とも言っていたので、逆に何か詳しい事情を知っているかも、と訊いてみることにした。

すると、「2年ほど前に奥さんが亡くなったみたいで、その後しばらくは営業してたみたいだけど閉めちゃったんだよね。実は私の店とも交流がないからそれ以上のことは判らないんだけど・・・」とのこと。

なんてことはない、私が得ていた情報と同程度しか知らなかった。とくにトラブルも無いようだったし、それなら老人は隣の不動産屋にも部屋探しを頼めたハズである。お尻に火がついていることだし、本気で探しているなら決めるのに1ヶ月とはかからないものだろう。


荒れ果てた家をしばらく眺めていて、老人は、奥さんとの思い出がいっぱい詰まった家や店から立ち退く寂しさから逃れようとしている、いや、「出来ることなら自分もこの家で死にたい」と望んでいるのでは、と思えてきた。我が身に置き換えてみれば、亡くなった奥さんと何十年も苦労を共にしてきた家ならば、例え借家であっても、私もきっとそう考えるに違いないから。


正直さっきまで無性に腹も立っていたが、もしそういうことであるなら少しくらいは老人の夢に付き合ってあげてもいいのでは、と思った。

手数料を稼ぐのだけが不動産屋の仕事ではないのだし・・・。


posted by poohpapa at 07:22| Comment(6) | お客さん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。
ご無沙汰してます。

ありがたい事に仕事が忙しく自分のブログ更新も放り出しています。(笑
仕事があるのは、ありがたいありがたい。
コメントを残したくても中々気力と時間がない今日この頃です。<(_ _)>

で、
このおじいさんの気持ち。
poohpapaさんが想像した通りなら、私にも良く分かります。
いえ、誰にでも分かるのではないかしら・・・
私も相方も思い出が詰まった実家は、最早母が独りで暮らしています。
その家に戻って暮らせればいいけど、仕事や諸々の事情で移り住むのは困難・・・
と感じています。

必ず来るであろう「いつかその時」が来たら、断腸の思いで処分するしかなくなる可能性も高いです。
それが当事者であったのなら。
自分がそこに住む最後の人間であったのなら。
やはり私もそこに住み続けたいと思うでしょうね。
poohpapaさんがおじいさんの住む家まで見に行かれなかったら分からなかった事ですね。
そういうpoohpapaさんの優しさというか、「なんでだろう?」というその先を想像するという姿勢がとても好きです。

でもおじいちゃん・・・
がんばらないと・・・
だけど、荷物を整理する、という事を考えるだけでも一人暮らしなら尚更気持ちが萎えてるのかもしれませんね〜
Posted by 葉山猫 at 2008年03月07日 09:18
当社にも数ヶ月前に同じような方が来店されました。

結果的には音信不通となり話が滞ってしまったのですが。

その方は知り合いの家に身を寄せているとの事でしたが、何かあったのか引越しを希望されていました。

生活保護の相談事務所に行かれていた様で、そちらに話も伺いに行ったのですが、どうも先方も困惑気味でした。
要は相談に来るものの結局の所どうしたいのかが分からない。アドバイスをしても行動に移さない。結局相手の出方を待っている状態でした。

挙句の果てには相談事務所の方がそちらで処理を何とかしてもらえないだろうかという始末。

真意を伝えたくないのも分かります。しかし、相談された側とすれば。。。
家主さんにも打診をして良いお返事も頂き準備万端でしたが。

こちらも商売で家主さんの手前もあります。
他社が相手にしないのもこういうケースがあるからなのでしょうか?

経験のない事でしたので少々悩みましたね。
Posted by えびけん at 2008年03月07日 10:27
ご無沙汰してました。

その老人の真意が「奥さんと一緒に暮らしていた家で人生を全うしたい」って事だとしたら、部屋探しをしているふりをして立ち退きを先延ばしにしているって可能性も考えられますね。

それならいいですが・・・・・・

最近は何社も不動産屋を回って時間をかけているお客さんが多く決まりかかっても直前でぽしゃとか良くあります。

物件案内書を何枚も見せて「コレが見たい」って言われて案内したのに

「○○小学校が遠い」とか言われるのもしばしばですよ・・・・

物件案内書を見ていても、見たのは間取りだけかーいって思うこと・・・・良くあります(T_T)
Posted by はなくろ at 2008年03月07日 17:34
葉山猫さん、おはようございます

途中からは、もういいかげんにしてくれ!、と思ってました。

明るい老人なんですけど、話していて、私には言わない本音がありそうな気がして、「いいから他の店に行ってくれ」と言いたい気持ちを抑えて家を見に行ってきました。そしたら廃家同然で・・・。

寂しい気持ちになりました。「きっと、長年暮らした家が取り壊される姿を見たくないんだろうな」と思えて、ならば、知らん顔をして「決める気のない部屋探し」に付き合ってあげよう、と思いました。家主さんには迷惑なだけの話でしょうけど、ま、うちの家主さんじゃないし^_^;

私たちの仕事は、必ずしも空室募集や管理だけじゃない、と思うのですよ。そうでない部分は「社会への奉仕」と言えるかも知れません。

温かなコメントを頂いてウルウルしてました。

いつも有り難うございます。

そうそう、久しぶりに葉山猫さんが記事を更新なさっていたのでホッといたしました(*^^)v
Posted by poohpapa at 2008年03月08日 08:55
えびけんさん、おはようございます

そういうのは困りますよね。相談にみえるなら、出来る限りは正直に実情を話して頂かないと、業者としては対応が出来ないことになりますし、何かあって業者さんや家主さんに迷惑を掛けたり、信用問題にも繋がりますもんね。

最近は、生活保護の認定が厳しくなって、保護を受けたいと希望する人が「業者に正直に内容を話してくれないケース」が多々ありますね。

辛いのは、一生懸命に相談に乗ったり交渉したりしていて、それで音信不通になってしまうことで、率直に言って生活保護の方は「断る時」に連絡をくれずに放ってしまう人が多いのも事実、だと思います。

お互い、頑張りましょう(*^^)v
Posted by poohpapa at 2008年03月08日 09:05
はなくろさん、おはようございます

たぶん、はなくろさんと私の推察どおり、だと思います。でなければ、家主さんが「ちゃんと出すものは出す」と言っているのだし、生活保護も受けているし、もう廃家同然なのですから、さっさと引っ越すものでしょう。

ところで、案内した後で「学区が違う」だの「病院が遠い」だの言う人、けっこういますよね。そんなの最初から判ってただろう!、と言いたくなります。というか、「もう来るな!」と・・・(*^^)v

決まってナンボ、の商売は辛いですね(爆)
Posted by poohpapa at 2008年03月08日 09:14
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