だが、少し特徴がある声と喋り方で電話の主が誰だか直ぐ判った。
私の店で以前に2度部屋探しをした生活保護の若い娘さんである。
「今日は休みですか?、今、店の前にいるんですけど・・・」
「やってるけど、お昼なんで、ちょっと待ってて」と、急いで店に戻ると彼氏と一緒だった。たしか、去年引っ越したばかりのハズ・・・。
「どうしたの?」と訊くと、「今借りてる部屋、更新できなくなっちゃったんで急いで次の部屋を探さなきゃならなくなって・・・」だと。
それじゃナニかい?、保護を受けていながら家賃を滞納とかして追い出されることになって、そいでもって私に次を探せ、ってかい!?
出来っこないだろ、そんなこと!、と思っていたら少し事情が違っていた。なんでも、しばらく実家に帰っている間、友だちから「部屋を貸してほしい」と頼まれて使わせていて、久しぶりに戻ってみると、
ドアに「金、返せ!」との貼紙・・・。
友だちは借金取りから逃れる為に隠れ家として又借りしたものの、直ぐに居場所を突き止められ、連日、取立人が来ていたようだ。だが、同じアパートの住人からは「本人が借金取りに追われている」と思われてしまうものだろう。住人から近所に住む家主さんに何件も問い合わせが入ったらしい。家主さんは赦してくれたが住人からは強烈に拒絶された、とのこと。きっと怖い思いをしていたに違いない。
そこまで聞いて「この馬鹿野郎!」と叱りつけた。まるで昨日の続きだ。お客さんに面と向かって「馬鹿野郎」と言ったのは初めてだが、本当に情けない。それでは更新が受けられなくなるのは当然だ
仕方ないので、なんとか条件にピッタリの物件を紹介してやった。
娘さんは私にキツ〜く叱られても屈託なく話を続ける。
「そういえば、昨日、今の部屋を管理してる不動産屋さんと市役所に引越し申請の手続きに行ってたら、奥の部屋から怒鳴り声が聞こえてきて凄く怖かったんですよ」、だと。
「それ、何時ごろの話?」
「お昼ごろでした」
「・・・・・」
その時同行していた管理会社の社長は私とは頗る仲の良い人だが
ふだんは出さない大声だったし一応壁も有ったから、その時は二人とも私だと気付かなかったらしい。後で電話すると大笑いしていた。
「それで〜、福祉の担当者から『規定より安めの物件で決めないと引越し費用を補助しないよ』って言われてるんですけど、この物件で大丈夫でしょうかねえ、心配なんですけど・・・」と不安そうに言う。
「あ、なら絶対に大丈夫!」とアッサリ断言すると、
「どうしてそんなこと言えるんですか?」と訊くので、こう答えた。
「だって、昨日、福祉課の相談室で怒鳴ってたのこの私だから、あなたと一緒に私が福祉課に顔を出したなら、皆まだ私の顔を覚えてるだろうし、職員の間に緊張が走って嫌でもOKすると思うよ」、と


