先日、「社長には一文の得にもならない話やけど、頼みたいことがあるんやけど・・・」と電話があった。ご本人は遠慮してそう仰るが、得にならないような話を持ち込むような人ではない。よしんばそうであったとしても、相手がその社長なら全くかまわない。
「仕事終わってから行きたいんやけど何時までやってはる?」と訊くので、「前もってご連絡頂ければ何時でもお待ちしてますよ」と言うと、その日のうちに連絡をくれ、夜には来てくれた。社長の持ち味は「行動が早い」ということで、口に出したら直ぐ実行するタイプ。それは私も見習わなければ、と思う。
相談の内容は「今年こそ宅建の試験に合格したいんやけど、どないしたらええ?」とのこと。社長の会社は不動産会社ではない。だが、ここでは書かないが職種の関係上、不動産絡みの商談がよく入ってくるらしい。なので新しい事業展開を考えているようだ。「宅建の試験に通ったらいろいろ協力してくれへんかなあ」とのことで、もちろん、私のほうこそ大歓迎である。
それで、さしあたってテキストの選び方などを相談に来たのだが、ついでに「うちの会社に来て講師してくれへん?」との依頼を受けた。まあ、大手建設会社の宅建講座で講師を務めさせてもらった経験はあるが、もう20年も昔の話だし、私が教えていたのは宅建業法の分野だけ、今ではそれも覚束ないだろう。もちろん社長のことだから私をタダで使おうなどと思ってないし、むしろ法外な講師料を払うつもりでいると分かっていて、今の私には有り難い話だが、逆に迷惑をかけたくないので講師の話は辞退させて頂いた。
昨年も社員に受けさせようとして、街の宅建教室から講師を招いて会社で終業後に勉強させていたようだが、講義中に頻繁に取引先から電話が入ったりして勉強に集中できず、あえなく全員が撃沈。今年こそ誓いも新たに・・・、と言いたいところだが、このまま行けば去年の二の舞になるのは間違いない。講師は無理だが、テキストの選び方と勉強の進め方だけ教えさせて頂くことにした。
実は私には、テキストや勉強の進め方以上に気になっていることがある。社長は気前が良いから教材費など全部会社負担にしているが、そもそも「それが間違い」だと思う。テキスト代くらい身銭を切らせなければ途中で投げ出してしまうもの。近いうちに会社に出向いて最初だけ「お話」をさせて頂くことになったので、社員からは恨まれるかも知れないが、「教科書無償化廃止」の方向で検討して頂くつもりでいる
ところで、この社長、どこでどう見つけてくるのか不思議な人脈を持っている。取引した相手が皆この社長のファンになっている。社長のほうからモノ欲しそうに何か頼まなくても向こうから「役に立ちたい」と寄ってくるようだ。なので営業活動をしなくても仕事が絶えることがない。と言うか、営業マンが一人もいない。それでいて右肩上がりの業績で、社員も増やしていっている・・・。
私には理由が解かるような気がする。社長は母子家庭である。右も左も分からない東京で、ただがむしゃらに頑張っている姿が危なっかしくて、相手に「放っておけない」と思わせてしまうんだろう。もう一つ、これが一番大きいのだが、この社長は決して「不義理をしない」人である。ちょっと取引しただけでもそんなことは直ぐ解かるものだから相手が安心してくれる、その人間性が魅力なのだ。私もそう思っているし。
社長に、「今年も全員不合格だといいな。そしたら私を雇ってよ。もう自分でやるの疲れたから」と言うと、「いいよ」と二つ返事で受けてくれたのだが・・・、私はもう世間での定年の年齢を過ぎていたんだった
社員の誰かが合格して業協会に入ることになったら、うちの立川支部を紹介しよう。社長は元々が関西人であるから、支部の運営方針に「そんなんおかしいわ」と私以上に文句を言ってくれるだろう(爆)
お店をしていて、稀に「このお客さんは本当に大切にしよう」と思える人と出会えることがある。社長はそういう人である。私は全てのお客さんや家主さんが平等に大切、なんて綺麗事は言わない。儲けさせてくれるか、損か得かということでなく、それは人間性の問題で、それに尽きる。不動産屋だって人間だから。

