家主さんはご高齢で神奈川県にお住まいになっていて、息子さんは千葉で暮らしている。家主さんとは15年以上の付き合いだが、一緒に暮らしている娘さんの存在は知っていたが、息子さんがいるとは知らなかった。その息子さんが初めて電話してきたのである。
用件は、「何年も前にアパートの前面道路まで本下水の本管が通っていて、アパートは現在は浄化槽水洗なので市役所から『早く本下水への接続工事を済ませるよう』勧告があったから、何社か見積もりを取って送ってもらいたい」、というものだった。
相見積もりを取り、比較してどこに依頼するか決めよう、ということなのだが、見積もりを依頼するのは簡単な話ではない。このご時勢、どこも見積もりまでは無料だが、人が動けば経費はかかるものだし、うちは一社としか取引していない。しかも飛び切り良心的な業者である。吹っかけるようなことは一度もした事がなく、給湯器の修理なんかでも安易に新品交換を勧めたりはしない業者である。頼むかどうか分からない見積もりで隣町まで行ってもらうのも気が引ける。率直に言って、何でもタダでやってもらって当たり前のように思われることが多い私としては尚のこと相見積もりでの依頼はしたくない。
「(こういうふうに)とても良心的な業者さんですから一社だけの見積もりでも大丈夫だと思いますよ」と息子さんに話すと、「じゃあ、その会社だけでもいいから、とにかく頼んでみてくれ」とのこと。
先日、見積もりが上がってきたので郵送したのだが・・・、
「私は以前そういう仕事をしていたので分かるんだけど、この見積もりは高すぎるんじゃないの?。68万てことになっているけど、細かく見ていくと38万くらいで出来る工事内容だよ」、とのこと。
私は、けっこう大掛かりな工事だから妥当な数字と思っていたので、まさかそんな話になるとは思ってもみなかった。息子さんの話では、高い部材もあるし、人件費が高く計算してある、とのこと。
それで、途中、こんな話が出た。
「オタクが乗っけてる(バックマージンを貰っている)とは思わないけど」、だと。「思ってるじゃねえか!」である。全く思ってなければそんな言葉は出てこないし、そんな発想にもならないものだ。以前そういう仕事をしていて不動産業者からバックを要求されていたかも知れないが、こっちの業者は誠実だし当社も乗せてなんかいない。だが弁解すればするほどそういう話は怪しく思われてしまうから、反論したい気持ちを抑えて、あえて聞き流した。
当然に当社から断りを入れることになったのだが、私は菓子折りを持ってお詫びしてきた。どうでもいいような付き合いをしているなら電話で済ませるが、誠実な相手だからこそ誠意を持って応えたい。
社長は恐縮していたが、そうするのが当然なのだ。こっちの付き合いの為に結果的に社員に無駄働きをさせてしまったのだから。
だが、本当の理由は伝えなかった。「家主さんが思っていた以上の金額になってしまって、資金不足のようです。家主さんもよく解からないもので今回はご容赦ください」としか言っていない。ありのまま話したなら、良いことなど何もない。ただ不快になるだけだ。
どういう計算かは不明だが、その業者で68万と言うなら他所でそれ以下になる可能性は少ないものだろう。いくら不景気でも38万なんかで受ける業者はいないと思う。そのアパートは築年数も古く駅からも遠いのだが、この賃貸不況の中でも現在満室である。率直に言わせてもらえば、(息子さんはご存知ないだろうが)家主さんには見えないところで私もいろんな努力をしている。もちろんそれは当然のことであって当社に限ったことではないが、ある程度の差額なら管理会社の顔を立てて飲み込む度量や配慮も必要ではなかろうか。もっと言うなら、管理会社が利益を乗せていたとしても当たり前のことなのだ。手間隙かかるし、何らかの責任も負わされるのだから。
まあ、向こうは「38万で可能」と思っているから「ある程度の差額」にはならないのだろうが・・・。
家主さんであるお母さんは普段とても私のことを気遣ってくださるし腰の低い方で、今すぐ何かの影響が出るとは思えないが、ご高齢でもあり、もしもの時にはうちとの付き合いがどうなるか分からない。
これだけは自信を持って言えるが、そのアパートを他の不動産会社に任せたなら、よっぽど値下げしない限り満室になることはないだろう。息子さんの言葉遣いや態度などはとくに失礼というほどではなかったが、結局、私は疑われ、手間と若干の経費と余計な菓子折り代も掛かり、頭を下げに行く破目になっただけで、得るものは何もないのだから、ただ貧乏くじを引かされたようなものである

